澄んだ秋空の下、木々の葉が少しずつ色づき始める9月の利根川上流。涼やかな風が吹き抜ける渓流は、都会の喧騒を忘れさせてくれる最高の癒やしの空間です。この時期、川の中では生命が躍動し、美しい渓流魚たちが釣り人を出迎えてくれます。「釣りを始めてみたいけど、何から手をつければいいかわからない」と感じている初心者の方もご安心ください。この記事では、9月の利根川上流で最高の釣り体験をするために必要な情報を、魚種の紹介から具体的な釣り場のポイント、釣り方、そして安全に楽しむためのルールまで、余すところなく解説します。このガイドを手に、忘れられない一匹との出会いを求めて、大自然の中へ一歩踏み出してみましょう。
9月の利根川上流で狙える!魅力あふれる渓流魚たち

9月の利根川上流は、まさに渓流釣りのクライマックスシーズン。この時期に主役となるのは、ヤマメ、イワナ、そしてニジマスの3種類の美しい魚たちです。もちろん、他にもコイやウグイなどもいますが、今回は渓流釣りの花形であるこの3種に絞って、その魅力と攻略の鍵をご紹介します。
渓流の女王「ヤマメ」
その美しい姿から「渓流の女王」と称されるヤマメ。体側にある楕円形の斑紋「パーマーク」が特徴で、多くの釣り人がその一匹を追い求めます。ヤマメは比較的流れの速い場所を好む傾向があり、瀬の中で果敢にルアーや餌にアタックしてくる姿は、釣り人を魅了してやみません。
しかし、9月のヤマメ釣りを計画する上で、絶対に知っておかなければならない最も重要なことがあります。それは、利根川漁協をはじめとする周辺漁協の管轄エリアでは、ヤマメの禁漁期間が9月21日から始まるということです。つまり、9月20日がシーズン最終日となります。この時期のヤマメは産卵を控え、体に「婚姻色」と呼ばれる美しい色彩をまとう個体も多く、シーズン最後の貴重な一匹を狙う絶好の機会です。この限られた時間の中で女王との出会いを果たすことは、特別な体験となるでしょう。
源流の神秘「イワナ」
ヤマメよりもさらに上流の、冷たい水が流れる源流域に生息するのがイワナです。岩陰や流れの緩やかな場所に潜んでいることが多く、その神秘的な雰囲気から多くのファンを持つ魚です。大きな口で餌に食らいつく姿は迫力満点です。
イワナもヤマメと同様に、禁漁期間は9月21日からと定められています。9月はイワナにとっても産卵を控えた重要な時期。シーズン最後のチャンスを逃さず、源流の神秘に触れてみてください。
パワフルなファイター「ニジマス」
その力強い引きで釣り人を楽しませてくれるのがニジマスです。利根川上流域では放流も盛んに行われており、比較的出会いやすい魚と言えるでしょう。流れの速い瀬から深い淵まで、様々な環境に適応できるため、初心者でも狙いやすいターゲットです。
そして、初心者にとって最大の魅力は、その遊漁期間にあります。ヤマメやイワナと違い、ニジマスは基本的に通年(1月1日から12月31日まで)釣ることが可能です。もし9月20日を過ぎてしまっても、あるいは秋が深まる10月以降に釣りに行きたくなっても、ニジマスならいつでも挑戦できます。この柔軟性は、釣行計画を立てる上で大きなアドバンテージとなるでしょう。
初心者でも安心!利根川上流のおすすめ釣り場ポイント5選

「利根川上流」と一言で言っても、その範囲は広大です。そこで、ここでは特に初心者の方がアクセスしやすく、安全に楽しめる実績の高い釣り場を厳選して5つご紹介します。どの釣り場で釣りをするにも、必ず「遊漁券」が必要ですので、事前の準備を忘れないようにしましょう。
【本流エリア】沼田市・みなかみ町周辺
利根川の本流は、川幅が広く水量も豊富で、大型のヤマメやニジマスが潜んでいるスケールの大きなフィールドです。特に前橋市の上毛大橋から中央大橋にかけての区間は冬季釣り場として利用されるなど、魚影が濃く、駐車場などのアクセスも整備されています。ただし、川の規模が大きいため、どこを狙えば良いか初心者は戸惑うかもしれません。まずは後述する支流で経験を積んでから挑戦するのも良いでしょう。
【支流①】魚影の濃さが魅力「片品川」
利根川最大の支流として知られる片品川は、ヤマメ、イワナともに魚影が濃く、ダム湖から遡上してくる「戻りヤマメ」などの大型も期待できる人気の河川です。国道120号線沿いに釣り場が広がっており、駐車スペースを見つけやすいのが魅力。深い淵や岩が点在する変化に富んだ流れが特徴で、いかにも大物が潜んでいそうなポイントが多く、探る楽しみがあります。
【支流②】里川の風情を楽しむ「薄根川」
川場村を流れる薄根川は、のどかな里山の風景の中を流れる美しい渓流です。人気の道の駅「川場田園プラザ」が近くにあり、ここを目印にすればポイントを見つけやすいでしょう。川幅はそれほど広くなく、瀬や落ち込み、淵といったポイントが連続しており、初心者でも魚の居場所をイメージしやすいのが特徴です。川の流れを読む練習をするのにも最適なフィールドです。
【支流③】自然豊かな穴場「赤谷川」
みなかみ町を流れる赤谷川は、手つかずの自然が色濃く残る美しい渓流です。湯宿温泉周辺では15cm前後のヤマメが数多く生息しており、気軽に楽しむことができます。利根川本流との合流点付近は開けた大場所となっており、思わぬ大物との出会いも期待できます。一部は奥深い山岳渓流の様相を呈しますが、初心者でもアプローチしやすいエリアも多く、冒険心をくすぐられる釣り場です。
釣り場ポイント早見表
どの釣り場に行こうか迷ったら、以下の表を参考にしてみてください。自分のレベルや目的に合った場所を選ぶことが、釣果への一番の近道です。
エリア | 主な対象魚 | 初心者おすすめ度 | アクセス・駐車 | 特徴 |
利根川本流 | ヤマメ、ニジマス | ★★☆☆☆ | 比較的容易、駐車スペースも多い | スケールが大きく、大型魚が狙える。ポイントを絞るのが難しい。 |
片品川 | ヤマメ、イワナ | ★★★★☆ | 容易、国道沿いに駐車スペースあり | 魚影が濃く、初心者から上級者まで楽しめる人気の河川。 |
薄根川 | ヤマメ、イワナ | ★★★★★ | 非常に容易、道の駅が目印 | 川幅が手頃でポイントが分かりやすく、初めての渓流釣りに最適。 |
赤谷川 | ヤマメ、イワナ | ★★★☆☆ | 場所による、温泉街周辺は容易 | 自然豊かで美しい渓流。山ヒルに注意が必要な場所もある。 |
これで釣果アップ!釣り方別・基本テクニック徹底解説

渓流釣りには、大きく分けて「ルアー釣り」と「餌釣り」の2つのスタイルがあります。どちらも奥深く、それぞれの魅力があります。ここでは、初心者の方がまず一匹を釣るための、それぞれの基本的な道具とテクニックを分かりやすく解説します。
渓流ルアー釣りの始め方
小魚などを模したルアーを使い、魚の捕食本能を刺激して釣るのがルアーフィッシングです。道具選びに迷うかもしれませんが、まずは以下のシンプルな組み合わせから始めてみましょう。
- 初心者のためのタックル
- ロッド(竿): 長さ5.3フィート(約160cm)前後で、硬さがUL(ウルトラライト)またはL(ライト)のスピニングロッドがおすすめです。木々が覆いかぶさるような狭い川でも扱いやすい長さです。
- リール: 2000番サイズのスピニングリールを選びましょう。流れの中で素早く糸を巻き取れる「ハイギア」モデルだとさらに便利です。
- ライン(釣り糸): まずは扱いやすい「ナイロンライン」の4ポンド(lb)を使いましょう。しなやかでトラブルが少なく、初心者には最適です。
- 揃えておきたい基本ルアー
- シンキングミノー(4g~5g、50mm): 小魚の形をした、最も万能なルアー。沈む(シンキング)タイプは、流れの中でもしっかりと魚のいる層まで届かせやすいのが特徴です。まずはこれを1つ持っていきましょう。
- スプーン(3g~5g): 金属製のシンプルなルアー。ただ投げて巻くだけでもヒラヒラと泳ぎ、魚にアピールします。様々な水深を探るのに便利です。
- スピナー: 巻くとブレードが回転し、その振動で魚を誘います。初心者でも簡単に使え、特に活性の低い魚にも効果的なことがあります。
- 基本テクニック「アップストリームキャスト」渓流ルアーの基本は、自分よりも上流に向かってルアーを投げることです。斜め上流(アップクロス)に投げ、流れより少し速いスピードでリールを巻きます。こうすることで、ルアーが自然に上流から下流へ流れてくる小魚や虫を演出でき、魚に違和感を与えにくくなります。
渓流餌釣りの始め方
ミミズや川虫といった自然の餌を使って釣るのが餌釣りです。魚が普段食べているものを餌にするため、非常に効果的で、古くから親しまれてきた釣り方です。
- 初心者のためのタックル
- ロッド(竿): 長さ5.4m前後の「渓流竿(のべ竿)」が標準的で、様々な川幅に対応できます。リールは使いません。
- 仕掛け: 初心者の方は、釣具店で売っている「市販の渓流釣り仕掛けセット」を使いましょう。竿の長さに合ったものを選べば、糸や目印、オモリ、ハリが全てセットになっており、複雑な仕掛け作りから解放されます。
- 効果的な餌
- ミミズ: 最も手に入りやすく、どんな状況でも効果を発揮する万能餌です。特に雨で川が少し濁った時には絶大な効果があります。
- 川虫: 魚たちが普段食べている最高の餌です。川の中の石をひっくり返すと採集できますが、まずはミミズから始めるのが手軽でおすすめです。
- 基本テクニック「ミャク釣り」餌釣りの基本は、餌を川底付近に自然に流すことです。これを「ミャク釣り」と呼びます。コツは、仕掛けについている色の付いた「目印」をよく見ること。仕掛けを上流に振り込み、餌が川底を転がるように流します。その際、目印が「スッ」と引き込まれたり、流れの中で不自然に止まったりしたら、それが魚のアタリです。流れの速さに合わせてオモリの重さを変え、いかに自然に餌を流せるかが釣果を分ける鍵となります。
初心者のための「最初の道具」早見表
ルアー釣り | 餌釣り | |
竿 | 5.3フィート Lクラス スピニングロッド | 5.4m 渓流竿(のべ竿) |
リール | 2000番 スピニングリール | 不要 |
糸・仕掛け | ナイロンライン 4ポンド | 市販の完成仕掛けセット(5.4m用) |
ルアー・餌 | シンキングミノー(50mm)、スプーン(3g) | ミミズ |
その他 | オモリ各種、予備のハリ |
釣行前に万全の準備を!必須装備と服装ガイド
渓流釣りは、魚を釣る道具だけでなく、自分自身の安全と快適さを確保するための装備が非常に重要です。特に川の中を歩くため、適切な準備が釣りの楽しさを大きく左右します。
基本タックル以外の重要アイテム
- ウェーダーとウェーディングシューズ: 川の中に入るための防水ズボンです。胸まである「チェストハイウェーダー」が安心です。靴と一体型ではなく、別に「ウェーディングシューズ」を履くタイプを選びましょう。靴底がフェルト素材のものは、苔の付いた滑りやすい石の上でも優れたグリップ力を発揮します。
- フィッシングベストまたはバッグ: ルアーケースや仕掛け、小物などを収納し、両手を自由にするために必須です。
- ランディングネット(タモ網): 釣れた魚を安全に取り込むための網です。特に魚を逃がす(キャッチ&リリース)場合は、魚体へのダメージが少ないラバー製のネットがおすすめです。
- 偏光グラス: これは単なるサングラスではありません。水面の光の乱反射をカットし、水中の石や地形、そして魚の姿まで見やすくしてくれます。安全な歩行と釣果アップの両方に欠かせない最重要アイテムの一つです。
安全と快適のための服装と小物
- 服装: 基本は「重ね着」です。山の天気は変わりやすいため、体温調節ができるようにしましょう。速乾性のある化学繊維のシャツやズボンが快適です。突然の雨に備え、防水性のあるレインウェアは必ず持っていきましょう。
- 帽子: 日差しを防ぐだけでなく、誤ってルアーのハリが飛んできた際などに頭部を守る役割もあります。
- 安全のための小物:
- 熊よけの鈴: 利根川上流は熊の生息地でもあります。自分の存在を知らせるために、歩く際は必ず鈴を鳴らしましょう。
- 虫除けスプレー: 渓流にはブヨやアブなどの虫が多くいます。快適に釣りをするために必須です。
- 救急セット: 転倒による擦り傷などに備え、絆創膏や消毒液など簡単な救急用品を持っていると安心です。
ルールとマナーを守って安全に楽しむために
美しい利根川の自然を未来に残し、誰もが気持ちよく釣りを楽しむためには、ルールとマナーを守ることが不可欠です。これらは釣り人を縛るものではなく、魚と自然、そして釣り人自身を守るための大切な約束事です。
最重要:遊漁券の購入方法と料金
利根川上流で釣りをするには、管轄する漁業協同組合が発行する**「遊漁券(ゆうぎょけん)」が法律で義務付けられています**。無券での釣りは密漁となり、罰則の対象となります。購入は非常に簡単です。
- 購入場所:
- コンビニエンスストア: セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートなど、現地の多くのコンビニで手軽に購入できます。これが初心者にとって最も簡単な方法です。
- 釣具店・おとり店: 現地の釣具店や指定の販売所でも購入可能です。
- オンライン: 「FISH PASS」などのオンラインサービスを利用して事前に購入することもできます。
- 料金: 魚種や期間によって異なりますが、ヤマメやイワナ、ニジマスなどを狙う「アユを除く魚種」の1日券は、おおよそ2,000円です。
必ず確認!禁漁期間と禁漁区
- 禁漁期間: 何度も強調しますが、ヤマメとイワナは9月20日でシーズン終了です。これは、秋に産卵する魚たちを保護するための非常に重要なルールです。21日以降にこれらの魚を狙うことは絶対にやめましょう。
- 禁漁区: ダムや堰(せき)の周辺など、一年を通して釣りが禁止されている「禁漁区」が設定されています。釣行前には、必ず利根漁協などのウェブサイトで最新のマップを確認し、禁止エリアに入らないように注意してください。
自然の中で気をつけるべき安全対策
- 天候と川の増水: 山の天気は急変します。釣行前には必ず天気予報を確認しましょう。上流で大雨が降ると、川はあっという間に増水し、非常に危険な状態になります。国土交通省の「川の防災情報」などで水位をチェックする習慣をつけましょう。
- 川歩きの注意: 川の中の石は苔で非常に滑りやすくなっています。一歩一歩、足元を確認しながら慎重に歩きましょう。流れが速い場所や、水深が膝を超えるような場所には絶対に入らないでください。
- 野生動物との遭遇:
- 熊: 熊よけの鈴を身につけ、大きな声で話すなど、人の存在をアピールすることが最も有効な対策です。もし出会ってしまったら、静かに後ずさりして距離をとりましょう。
- マムシ・スズメバチ: 草むらや木の根元など、足元や手元には常に注意を払いましょう。特に9月はスズメバチの活動が活発な時期です。黒っぽい服装は避け、白など明るい色の服を着用すると良いとされています。
まとめ:秋の利根川で、最高の釣りの思い出を
9月の利根川上流は、ヤマメやイワナといった美しい魚たちに出会えるシーズン最後の特別な月です。初心者の方でも、今回ご紹介したようなアクセスの良い支流を選び、基本的な道具と安全装備を整えれば、十分に渓流釣りの醍醐味を味わうことができます。
大切なのは、完璧なテクニックよりも、まず一歩を踏み出す勇気と、自然を敬う気持ちです。遊漁券を買い、ルールとマナーを守り、安全に注意を払うこと。それさえできれば、釣果以上に価値のある、素晴らしい体験があなたを待っています。
この秋、澄んだ空気と美しい流れの中で、あなただけの一匹と出会う最高の思い出を作ってみませんか。そして、来た時よりも少しだけ綺麗にしてフィールドを去ることを忘れずに。利根川の豊かな自然が、いつまでも私たちを楽しませてくれるように。