導入:狩猟本能を解き放て!「攻めの釣り」タチウオテンヤの世界へようこそ

闇夜に銀色の閃光が走る。静寂を破り、竿先を叩き込むような強烈なアタリ。それは、まるで水中のドラゴンをハントするかのごとき興奮の瞬間です。ただ待つだけのエサ釣りとは一線を画し、アングラー自らが仕掛けを操り、魚の捕食本能にスイッチを入れる—それが「攻めのエサ釣り」、タチウオテンヤの世界です。
この記事は、タチウオテンヤという釣りの魅力に惹かれ、最初の一歩を踏み出そうとしているあなたのために書かれた、最も包括的で、戦略的な入門書です。この記事を最後まで読めば、あなたは以下の全てをマスターできるでしょう。
- タチウオテンヤ釣法の本質と、「電引き釣り」との関係性
- 釣果を劇的に左右する、最適なテンヤの選び方(重さ・形状・カラー)
- タチウオを狂わせる、ドジョウとキビナゴの正しい付け方
- 基本にして奥義、釣果を叩き出すための3つの基本誘いアクション
この釣りの核心は、「攻めの姿勢」にあります。タチウオは非常に気まぐれで、その日の状況によって好むアクションやエサの見せ方が刻一刻と変化します。ルアーフィッシングのようなゲーム性を持ちながら、生エサの圧倒的な集魚力でタチウオを誘い出すこの釣りは、アングラーが積極的に状況を読み解き、正解のパターンを見つけ出す「思考のゲーム」なのです。本稿を羅針盤として、あなたも価値ある一匹をその手で狩り獲る、エキサイティングなテンヤの世界へ旅立ちましょう。
第1章:タチウオテンヤとは?「電引き釣り」の魅力と基本を徹底解説

まずは、この釣りの根幹をなす「テンヤ」とは何か、そしてなぜこれほどまでにアングラーを魅了するのか、その基本を解き明かしていきます。
1.1. テンヤの正体:オモリとハリが一体化したシンプルイズベストの仕掛け
タチウオテンヤとは、一言で言えば「オモリと大きなハリが一体化した、エサ釣り専用のジグヘッド」です。その構造は極めてシンプル。これにより、複雑な仕掛け作りが不要で初心者にも扱いやすく、ライントラブル(オマツリ)が少ないという大きなメリットがあります。この単純さこそが、タチウオとの駆け引きに集中させてくれる、洗練された機能美なのです。
1.2. なぜ「攻めの釣り」なのか?ゲーム性の高さとその理由
タチウオテンヤが「攻めの釣り」と呼ばれる所以は、ルアーフィッシングの能動的な楽しさと、エサ釣りの確実性を融合させている点にあります。アングラーはただエサを沈めて待つのではなく、竿を操作してテンヤを動かし(誘い)、タチウオにエサの存在をアピールし、捕食のスイッチを強制的に入れていきます。アタリがあった瞬間に即座に掛けていく(アワセる)スタイルは、まさにハンティングそのもの。この一連のプロセスが、高いゲーム性を生み出しているのです。
1.3. 岸から?船から?「引き釣り」と船釣りの違いを理解する
タチウオテンヤには、大きく分けて「岸(堤防)」から狙う方法と「船」から狙う方法の2つがあり、それぞれ釣り方が根本的に異なります。この違いを理解することが、タックル選びで失敗しないための最初の鍵となります。
岸からのテンヤ釣り:「引き釣り(電引き釣り)」
関西地方で古くから親しまれている釣法で、テンヤを遠投し、リールを巻いて「引いてくる」ことから「引き釣り」と呼ばれます。これは主に水平方向の釣りです。電気ウキを使うスタイルが盛んだった時代に、電気ウキを使わずにテンヤを引いてくることから「電引き」とも呼ばれるようになったと言われています。
船からのテンヤ釣り
船釣りでは、タチウオがいる水深(タナ)までテンヤを垂直に落とし、そこからリールを巻いて「上げてくる」のが基本です。こちらは垂直方向の釣りになります。
この「水平(引き釣り)」と「垂直(船釣り)」という根本的なアプローチの違いが、使用するテンヤの重さを決定づけます。岸から重い船用テンヤを投げても飛ばず、すぐに根掛かりしてしまいます。逆に船から軽い岸用テンヤを落としても、潮に流されて底が取れず、釣りになりません。まずは自分がどちらのスタイルで挑戦するのかを明確にすることが重要です。
1.4. いつでも狙える!タチウオテンヤのベストシーズン
タチウオテンヤは、オフシーズンが短くほぼ一年中楽しめるのも魅力の一つです。地域差はありますが、一般的にベストシーズンは7月から10月頃。この時期はタチウオの活性が高く、数釣りが楽しめます。一方で、冬場(12月~3月)は活性が下がりテクニカルな釣りが求められますが、大型の「ドラゴン級」が狙える確率が高まる季節でもあります。
第2章:釣果を左右する!タチウオテンヤ選びの完全ガイド
テンヤ選びは、その日の釣果を決定づける最も重要な戦略です。単一の「最強テンヤ」は存在しません。状況に応じて最適な一手を選択するための「道具箱」を揃えるという意識で、選び方の要点を学んでいきましょう。
2.1. 全ての基本:最適な重さ(号数)の選び方
テンヤ選びで最初に決めるべきは「重さ(号数)」です。これがタチウオのいる層に仕掛けを届け、適切に操作できるかを左右します。
- 船釣り (Boat Fishing): 遊漁船では、他の釣り人とのオマツリを防ぐため、使用するテンヤの号数が統一されています。一般的には40号か50号が基準です。予約時に必ず船宿に指定号数を確認しましょう。
- 堤防・岸釣り (Shore Fishing): 岸からの引き釣りでは、キャストのしやすさや探る水深に応じて、**2号(約7.5g)から8号(約30g)**までを幅広く使い分けます。風の強さや潮の流れ、狙いたい飛距離によって最適な重さを選択します。
鉛 vs タングステン
テンヤの素材には主に「鉛」と「タングステン」があります。鉛は安価で、初心者が最初に揃えるには最適です。一方、タングステンは鉛より比重が重いため、同じ重さでもヘッドを小さく作れます。これにより、沈下速度が速く、潮の抵抗を受けにくいため、特に深場や警戒心の高いタチウオに有効です。ただし非常に高価なため、根掛かりで失う(ロスト)リスクを考えると、まずは鉛製から始めるのが賢明です。
表1:状況別・タチウオテンヤ推奨ウェイト早見表
シチュエーション | 推奨号数 | 狙い方と特徴 |
船釣り (水深~50m/潮が緩い) | 30号~40号 | 浅場や潮が緩い状況。繊細なアタリを取りやすい。※船宿指定に従う |
船釣り (水深50m~/潮が速い) | 50号~60号 | 深場や二枚潮など、速い潮に対応。確実に底を取る。※船宿指定に従う |
岸釣り (港内/穏やかな日) | 2号~4号 | 飛距離より足元や近距離を丁寧に探る。ナチュラルな誘いが有効。 |
岸釣り (外洋向き/風・潮がある日) | 5号~8号 | 遠投が必要な場面や、風・潮に負けずに仕掛けを安定させたい時に使用。 |
2.2. 水中での動きを決める!ヘッド形状の種類と使い分け
ヘッドの形状は、テンヤが水中でどのように動くかを決定づける設計図です。
- 丸型・卵型 (Round/Oval): 最もスタンダードな形状。安定したフォール姿勢と、ただ巻くだけでナチュラルに泳ぐのが特徴です。初心者の方が最初に選ぶべきは、このタイプです。あらゆる誘い方に対応できる万能選手と言えます。
- 扁平型・ダート型 (Flat/Dart): ヘッド側面で水の抵抗を受けやすく、竿をシャクると左右に鋭く飛び跳ねる(ダートする)ように設計されています。パニック状態の小魚を演出し、タチウオのリアクションバイトを誘発します。積極的に魚を探していく攻撃的な釣りに向いています。
- スリム型 (Slim): 水の抵抗が少なく、素早く沈下するのが特徴。手返し良く深場を探りたい時や、速い誘いに反応が良い時に有効です。自発的なアクションは少ないため、アングラーのロッドワークが動きに直結します。
2.3. タチウオを惹きつける!戦略的カラーローテーション術
タチウオは視覚に強く訴えかける魚であり、カラー選択は釣果を分ける重要な要素です。状況に応じて色を交換(ローテーション)することで、その日のヒットパターンを見つけ出します。
- 夜光(グロー)系 (Glow): 暗闇で自ら発光するカラー。夜釣りや深場、濁り潮など光量が少ない状況でのアピール力は絶大で、テンヤカラーの基本中の基本です。
- ケイムラ(UV発光)系 (Keimura/UV): 人間の目には見えない紫外線に反応して発光します。日中の曇天時や、光が届きにくい深場で効果を発揮します。
- メタリック系(金・銀) (Metallic – Gold/Silver): イワシなど小魚のウロコが出すキラメキ(フラッシング)を模倣します。日中の晴天時や澄み潮など、光量が多い状況で高い効果を発揮します。
- アピール系(紫・赤金・ゼブラ) (High-Appeal – Purple/Red-Gold/Zebra): タチウオの捕食本能を強く刺激するカラー。特に紫や、グローと他カラーを組み合わせたゼブラ模様は、多くの状況で安定した釣果をもたらす定番カラーです。
ここで注意すべきは、地域によってヒットカラーの傾向が大きく異なるという点です。例えば、大阪湾ではグロー系が圧倒的な実績を誇る「鉄板カラー」ですが、東京湾ではゴールド系やイワシを模したナチュラルカラーが主体となることが多いです。釣行するエリアの情報は、事前にしっかり収集しておきましょう。
表2:必携!タチウオテンヤ・カラー戦略チャート
状況 | パイロットカラー(最初に投げる色) | セカンドチョイス(反応がない時に試す色) |
夜間・濁り潮・深場 | フルグロー(全面夜光) | ゼブラグロー |
朝夕マズメ・曇天 | ゼブラグロー or ケイムラ | パープル系 |
日中・澄み潮 | ゴールド or シルバー | ケイムラ or ナチュラルイワシ |
高活性時 | 赤金 or 紫ゼブラ | フルグロー |
地域特化:大阪湾 | グロー系(特にスーパー夜光) | 紫ゼブラ |
地域特化:東京湾 | ゴールド系(フラッシュゴールド) | ケイムライワシ |
2.4. アタリを釣果に!フックシステムの秘密
フックシステムは、タチウオのアタリを確実な一匹に変えるための最終兵器です。
- 固定式 vs 半遊動式 (Fixed vs. Semi-Floating):
- 固定式: フックがヘッドにがっちり固定されています。アワセの力がダイレクトにハリ先へ伝わるため、積極的に掛けていくスタイルに向いています。また、エサを真っ直ぐに付けやすいというメリットもあります。反面、ファイト中にタチウオが首を振ると、テンヤの重さがテコになってハリが外れる(バラシ)原因になることもあります。
- 半遊動式: フックがヘッドに対して少し動く(遊ぶ)構造です。タチウオがエサに食いついた時に違和感を与えにくく、深く食い込ませることができます。ファイト中も魚の動きにフックが追従するため、バラシを大幅に軽減する効果があります。
- 初心者へのおすすめ: まずは半遊動式から始めることを強く推奨します。アタリがあってもうまく掛けられない、掛けても途中でバレてしまう、といった初心者にありがちな失敗を、システムが自動的にカバーしてくれます。
- アシストフックの重要性(特に岸釣り):タチウオはエサの尻尾の方だけをついばむような「ショートバイト」が非常に多い魚です。メインの大きなフックには掛からず、エサだけがボロボロにされる悔しい経験は誰もが通る道。この問題を解決するのが**アシストフック(トレーラーフック)**です。エサの後方に取り付ける小さな追加フックで、これを装着することでショートバイトを格段にフッキングさせられるようになります。岸釣りでは必須アイテムと言えるでしょう。ただし、船釣りではオマツリ防止のために禁止されている場合もあるため、事前に確認が必要です。
第3章:生命を吹き込む!エサ付け完全マスター講座

どんなに優れたテンヤを使っても、エサが不自然に曲がっていたり、すぐにズレてしまったりしては意味がありません。テンヤとエサを一体化させ、まるで生きているかのように見せることが釣果への最短距離です。ここでは代表的な2種類のエサの付け方を、図解するイメージで詳しく解説します。
3.1. エサ持ち抜群の定番!ドジョウの付け方
ドジョウは身がしっかりしておりエサ持ちが良く、手返しが重要なタチウオ釣りで非常に重宝されるエサです。
- 気絶させる: 生きたドジョウは非常によく動くため、まずは壁などに軽く叩きつけて気絶させると、格段に作業しやすくなります。
- ケンに刺す: テンヤのヘッド部分にある金属の突起(ケン)に、ドジョウの頭をしっかりと、真っ直ぐになるように刺し込みます。
- ワイヤーを巻く: 付属のワイヤーを、ドジョウの頭部・エラ周りから巻き始めます。頭部はキャスト時やアクション時に最も力がかかる部分なので、特にしっかりと固定しましょう。
- 尾はフリーに: ここが重要なポイントです。ワイヤーはハリが曲がっている部分の手前までで巻き終え、尻尾は巻かずに自由に動く状態にしておきます。このヒラヒラと動く尾が、タチウオに対して絶妙な誘いとなります。
- 固定して完了: ワイヤーの端をテンヤの軸に数回巻き付けて、しっかりと固定したら完成です。
3.2. ナチュラルな誘惑!キビナゴの付け方
キビナゴはタチウオの大好物ですが、身が柔らかく崩れやすいのが難点。丁寧なセッティングが求められます。
- 頭を乗せる: テンヤのヘッド部分にある台座に、キビナゴの頭を乗せます。
- 真っ直ぐに固定: 最も重要な工程です。キビナゴの体がハリの軸(シャンク)と一直線になるように、姿勢を慎重に整えます。ここで曲がっていると、水中で不自然に回転してしまい、タチウオに見切られます。
- 優しく、しかし確実に巻く: キビナゴの身を潰さないよう、優しく、しかしズレないように適度な力加減でワイヤーを巻いていきます。エラの部分から尻尾に向かって、等間隔で巻き付けましょう。
- 最終確認: 巻き終えたら、テンヤを持ち上げてみて、キビナゴが綺麗に真っ直ぐ付いているかをあらゆる角度から確認します。この一手間が釣果に繋がります。
第4章:タチウオを誘い出す!基本の誘い方3選

仕掛けとエサの準備が整ったら、いよいよ実釣です。タチウオテンヤの誘い方には無数のバリエーションがありますが、全ての基本となるのは「動」と「静」のリズムです。
基本原則:「動」で惹きつけ、「静」で食わせる
タチウオは動くものに興味を示し、追いかけてきます。これが「動」のアクションです。しかし、実際にエサに食いつくのは、その動きがフッと止まった瞬間、つまり「静」のタイミング(ステイ、ポーズ)であることがほとんどです。この「動かして、止める」というメリハリを意識することが、全ての誘いの核心です。
4.1. まずはコレから!ストップ&ゴー
最もシンプルで、初心者でも簡単に実践できる基本中の基本テクニックです。
- やり方: 一定のペースでリールのハンドルを2~3回巻き、ピタッと完全に止めます。そのまま竿先を動かさずに3秒から8秒ほど待ち(ステイ)、アタリがなければまた2~3回巻いて止める、という動作を繰り返します。
- 使う場面: まず最初に試すべきアクションです。その日のタチウオの反応を見るための基準となり、あらゆる状況で安定した効果が期待できます。
4.2. 釣果を伸ばす!ジャーク&ステイ
より積極的にタチウオにアピールし、釣果を伸ばすための攻撃的テクニックです。
- やり方: リールをゆっくり巻きながら、竿先を鋭く、短く1~3回跳ね上げます(ジャーク)。これにより、テンヤが水中で不規則にダートします。ジャークの直後、糸の張りを保ったままピタッと動きを止め、3~5秒のステイで食わせの間を作ります。重要なのは、キレのあるジャークと、静止したステイのメリハリです。
- 使う場面: タチウオの活性が高い時や、広い範囲を効率よく探りたい時に絶大な効果を発揮します。強いアピールで遠くの魚を寄せたり、反射的に口を使わせたりすることができます。多くの熟練者が多用する、まさに王道の誘い方です。
4.3. 低活性を打ち破る!ただ巻き&フォール
派手なアクションに全く反応がない、食い渋りの状況を打開するためのテクニックです。
- やり方:
- ただ巻き (Steady Retrieve): 電動リールの低速巻きのように、ごくゆっくりとした一定速度でリールを巻き続けます。変化を嫌う警戒心の強い大型や、低活性時のタチウオに有効です。
- フォール (Fall): 竿先を高く持ち上げてから、リールのクラッチを切り、ラインに軽くテンションを掛けながら(テンションフォール)、ゆっくりと竿先を下げていきます。弱って沈んでいく小魚を演出し、「落ちてくるエサ」にしか反応しないタチウオに口を使わせます。アタリは、フォール中にラインの沈下が止まったり、フッと軽くなったりして現れます。
- 使う場面: ジャークなどの強い誘いにスレてしまった時や、冬場の低水温期など、タチウオの活性が極端に低い状況で試す価値のある最終手段です。
結論:攻めの姿勢で、価値ある一匹をその手に
タチウオテンヤは、単なるエサ釣りではありません。それは、刻々と変わる自然を読み、ターゲットの心理を推測し、自らの技術で答えを導き出す、知的なスポーツフィッシングです。成功への道筋は、4つの柱で支えられています。
- 哲学を理解する: 「待ち」ではなく「攻め」の姿勢。自らが積極的に魚を探し、仕掛けていくという狩猟的なマインドセットを持つこと。
- 最適な道具を選ぶ: 状況に応じて、テンヤの重さ、形状、カラー、フックシステムを戦略的に選択する知識を身につけること。
- 完璧なプレゼンテーション: 命を吹き込むように、エサを真っ直ぐ、かつ確実にセッティングする技術を怠らないこと。
- リズムを極める: 全ての誘いの根底にある「動かして、止める」という黄金律を体に染み込ませること。
本稿で解説した知識と技術は、あなたのタチウオテンヤ釣行を成功に導くための、確かな土台となるはずです。しかし、本当の学びは現場にあります。ぜひ、このガイドを手にフィールドへ出て、試行錯誤を繰り返し、自分だけの勝利の方程式を見つけ出してください。その先には、銀色に輝く美しい魚体と、自らの手で勝ち取った者だけが味わえる、最高の達成感が待っています。