都会の喧騒から少し足を延せば、そこには生命力あふれる自然の楽園が広がっています。東京と神奈川を隔てて流れる多摩川は、まさにそんな都会のオアシス。特に夏の多摩川下流は、釣りの魅力が満載の季節です。この記事では、2024年の7月に多摩川下流で釣りを楽しみたい初心者の方やご家族連れに向けて、狙える魚種から具体的な釣り場のポイント、釣り方のコツ、そして安全に楽しむためのルールまで、網羅的に解説します。
都会の楽園の秘密:汽水域とは?
多摩川下流の釣りを理解する上で最も重要なキーワードが「汽水域(きすいいき)」です。これは、山から流れてくる淡水と、東京湾から満ち引きで入ってくる海水が混じり合うエリアのことを指します。この栄養豊富な特殊な環境が、多摩川下流の豊かな生態系を育んでいるのです。
この汽水域という環境があるからこそ、テナガエビのような淡水寄りの生き物から、シーバス(スズキ)やクロダイといった海の魚まで、多種多様なターゲットが同じ川で釣れるという、非常に面白い状況が生まれます。7月は、これらの生き物たちが最も活発になる時期の一つであり、初心者の方が釣りの楽しさを体験するには最高のシーズンと言えるでしょう。
7月の多摩川下流:何を狙う?夏の二大風物詩と多彩なターゲット

7月の多摩川下流では、初心者からベテランまで楽しめる多彩な魚種が待っています。特に、手軽に始められて釣果も期待できる「テナガエビ」と「ハゼ」は、夏の二大風物詩とも言える人気のターゲットです。まずはこの二つから挑戦し、慣れてきたら大物狙いのルアーフィッシングにステップアップするのも良いでしょう。
魚種 | 主なシーズン | 主な釣り場 | 初心者難易度 |
テナガエビ | 5月~9月 (最盛期: 6~7月) | テトラ帯・石積み | ★☆☆☆☆ (とても易しい) |
ハゼ | 夏~秋 | 砂泥底・岸際 | ★★☆☆☆ (易しい) |
シーバス | 通年 (夏も活発) | 橋脚・明暗部 | ★★★★☆ (挑戦的) |
クロダイ | 通年 (ベスト: 5~7月) | カキ瀬・ゴロタ場 | ★★★☆☆ (中級) |
手軽で奥深い!テナガエビ釣りの魅力と攻略法
日本の夏の風物詩ともいえるテナガエビ釣り。のんびりと川辺に座り、ウキの繊細な動きに集中する時間は、日々の忙しさを忘れさせてくれる癒やしのひとときです。釣り方がシンプルで、専門的な道具もあまり必要ないため、まさに初心者入門に最適な釣りです。

テナガエビ釣りのシーズンとベストな時間帯
テナガエビは5月から9月頃まで釣ることができますが、その最盛期は6月から7月にかけてです。この時期はサイズも良く、数も期待できます。
重要なのが「潮の動き」です。多摩川下流は海の潮の満ち引きの影響を強く受けます。テナガエビは潮が動いている時間帯に活発にエサを探すため、潮止まりの時間よりも、満潮や干潮に向かって潮が動いている時間帯が狙い目です。特に潮が満ちてくると、普段は陸地だった浅い場所にもエビが移動してくるため、絶好のチャンスとなります。釣行前には、スマートフォンのアプリやウェブサイトで「タイドグラフ(潮汐表)」を確認する習慣をつけると、釣果アップに繋がります。
初心者でも安心!テナガエビ釣りの基本タックルと仕掛け
- 竿(さお): リールを使わないシンプルな「のべ竿」がおすすめです。長さは1.2mから2.7m程度のものが扱いやすく、お子様でも簡単に使えます。釣り場の足場の高さに合わせて長さを選びましょう。
- 仕掛け: 釣具店で販売されている「テナガエビ用仕掛けセット」を購入するのが最も簡単で確実です。仕掛けには大きく分けて2種類あります。
- ウキ釣り: 小さなウキがエビのアタリ(魚がエサに食いついた反応)を教えてくれる、目で見て楽しめる釣り方です。初心者にはこちらが断然おすすめです。
- ミャク釣り: ウキを使わず、竿先に伝わる微かな振動でアタリを取る釣り方。少し慣れが必要ですが、よりダイレクトな駆け引きが楽しめます。
- エサ: 定番は「アカムシ」です。釣具店で入手できます。ハリには1、2匹をちょこんと引っ掛けるように付けます(チョン掛け)。
ここを狙え!多摩川下流のテナガエビ鉄板ポイント
テナガエビの居場所を見つけるための黄金律は、「障害物」と「日陰」です。彼らは臆病な性格で、物陰に隠れるのが大好きです。具体的には以下のような場所を狙いましょう。
- 消波ブロック(テトラポッド): ブロックとブロックの隙間は、テナガエビにとって最高の隠れ家です。
- 石積み・捨て石: 護岸の石積みや、川底に沈んでいる石の隙間も一級ポイントです。
- 杭などの構造物の影: 橋脚の杭など、日陰を作るあらゆる構造物の周りに潜んでいます。
主なポイント
- 六郷橋周辺: 多摩川随一のテナガエビ釣り場として有名です。JR川崎駅から徒歩圏内というアクセスの良さも魅力。上流側は足場の良い四角いテトラ帯、下流側は平坦なコンクリート護岸に捨て石が沈んでおり、どちらも有望なポイントです。
- ガス橋周辺: こちらも人気ポイントで、家族連れにもおすすめです。特に丸子ポンプ場の排水口周辺の護岸は足場が良く、狙い目です。
- 大師線港町駅周辺: 電車でのアクセスが非常に良く、車がない方でも気軽に訪れることができます。
テナガエビ釣りの基本動作とアワセのコツ
釣り方は非常にシンプル。見つけたポイントの隙間に、そっと仕掛けを落とすだけです。そして、ここからがテナガエビ釣りの最も面白い部分です。
ウキがピクピクと動いたり、すーっと横に移動したりしたら、それがアタリのサインです。しかし、ここで焦ってはいけません。「アワセは、慌ててはいけない!」 これが最大のコツです。魚と違い、テナガエビは長い手でまずエサを捕まえ、安全な隠れ家に戻ってからゆっくりと口に運びます。そのため、最初のアタリで竿を上げてしまうと、エサだけ取られてしまうのです。
ウキに変化が出てから、心の中で30秒から1分ほどじっと待ちましょう。テナガエビがエサをしっかりと口に入れた頃合いを見計らって、ゆっくりと竿を立てます。すると、竿先に「ブルブルッ」という小気味良い振動が伝わってきます。これがテナガエビ特有の、後ろに下がりながら抵抗する「エビバック」です。この独特の引き味こそ、テナガエビ釣りの醍醐味です。
釣れたテナガエビの中に、お腹にたくさんの卵を抱えたメスがいたら、未来の川の恵みのためにも、優しくリリースしてあげましょう。
より詳しく知りたい方は以下記事も参考にしてみてください。
【完全ガイド】テナガエビ釣りを始めよう!初心者向け仕掛け・エサ・ポイント選びのコツ
家族で楽しめる!江戸前ハゼ釣りの基本とポイント
夏から秋にかけての多摩川で、家族連れや釣りが初めての方に心からおすすめしたいのがハゼ釣りです。難しいテクニックは不要で、次々にアタリがあって子供も飽きさせません。そして何より、釣れたハゼは天ぷらにすると絶品です。
夏のハゼ釣りシーズンと釣果を伸ばすコツ
ハゼは夏から秋にかけてがシーズンです。7月はまだ小ぶりな「デキハゼ」サイズが多いですが、その分数が多く、活発にエサを追ってくれるので初心者には最適です。
ハゼ釣りでも潮の動きは重要で、やはり潮が動いている時間帯によく釣れます。ハゼは砂や泥の底(砂泥底)を好み、意外と岸に近い場所にいることが多いので、遠くに投げる必要はありません。
ハゼ釣りの代表的な釣り方3選
ハゼ釣りにはいくつかの方法がありますが、初心者におすすめなのは以下の3つです。
- ウキ釣り: テナガエビと同じく、のべ竿とウキ仕掛けで狙う最もシンプルな方法です。岸際の浅い場所を探るのに適しており、ウキが沈むのが見えるので、誰でも楽しめます。
- ミャク釣り: ウキを使わず、竿先で「コツコツ」というアタリを感じて釣る方法。よりダイレクトな魚とのやり取りが楽しめ、アタリを取る練習にもなります。
- ちょい投げ釣り: ハゼ釣りで最もポピュラーな釣り方です。リール付きの短い竿を使い、10m~20mほど軽く投げて広い範囲を探ります。
- 釣り方: 仕掛けを投げ、オモリが底に着いたら、ゆっくりとリールを巻いて仕掛けを引いてきます(ズル引き)。「ブルブルッ」というアタリがあったら、少し待ってからリールを巻き上げましょう。
- タックル: 2m~3mの竿に、小型のスピニングリール(2000番~3000番)を組み合わせます。仕掛けは、糸の絡みを防ぐ「天秤(てんびん)」が付いた市販のハゼ釣りセットが便利です。
ハゼ釣りのエサ:定番から意外な特効エサまで
- 定番のエサ: 「アオイソメ」が最も一般的で、安定した釣果が期待できます。ハリに付ける際は、1cm~1.5cmほどの長さに切って使うのがコツです。
- 意外な特効エサ: 「ボイルホタテ」も非常に効果的です。スーパーで手軽に購入でき、虫エサが苦手な方やお子様でも安心して使えます。小さくちぎってハリに付ければOK。その日の状況によってはアオイソメより釣れることもある「秘密兵器」です。
- 人工エサ: 「パワーイソメ」や「ガルプ!」といった、匂い付きの人工エサも有効です。手が汚れず、予備として持っておくと安心です。
設備も充実!多摩川下流のハゼ釣りおすすめポイント
- イチオシ!殿町第二公園・キングスカイフロント前: 初心者や家族連れに、ここほど最適な場所はないかもしれません。ハゼの魚影が非常に濃く、100匹以上の釣果報告もあるほどです。そして何より素晴らしいのが、周辺環境です。公園内に綺麗な公衆トイレがあり、近くにはコインパーキングやコンビニエンスストアも完備されています。釣りができて設備も整っている、まさに至れり尽くせりのポイントです。
- その他のポイント:
- 大師橋~多摩川スカイブリッジ周辺: この一帯は川底にコンクリート片や石などの障害物が多く、ハゼの隠れ家になっています。探り歩くのも面白いでしょう。
- 六郷橋周辺: こちらもハゼ釣りの実績が高いポイントですが、他の釣り人も多い場合があります。
ハゼ釣りについてより詳しく知りたい方は以下記事も参考にしてみてください。
ハゼ釣り完全ガイド!初心者でも爆釣できる釣り方、仕掛け、場所を徹底解説
ステップアップ!大物を狙うルアーフィッシング
テナガエビやハゼ釣りで釣りの基本に慣れたら、次はよりエキサイティングな大物狙いのルアーフィッシングに挑戦してみませんか。多摩川下流は、シーバスやクロダイといった人気のターゲットが狙える、関東屈指のフィールドです。

シーバス(スズキ):都会のファイターを狙う
多摩川のシーバスは、その力強い引きから「都会のファイター」とも呼ばれる人気のターゲットです。しかし、人気があるということは、それだけ多くの釣り人が狙っているということでもあります。
多摩川のシーバス釣りの特徴は、良いポイントほど釣り人が多く、プレッシャーが高い(魚が警戒している)という点です。特に六郷橋や丸子橋といった超人気ポイントは、週末ともなれば多くの釣り人で賑わいます。初心者がいきなり釣果を出すのは難しいかもしれませんが、タイミングと戦略が合えば、感動的な一匹に出会える可能性があります。
- 狙う時間: シーバスは夜行性のため、日没後の「ナイトゲーム」が基本です。潮が大きく動く時間帯、特に満潮・干潮の前後2時間がゴールデンタイムと言われます。
- 狙う場所:
- 橋脚の明暗部: 最も定番のポイント。橋の街灯が作る光と影の境目にシーバスは潜み、光に集まる小魚を待ち伏せています。
- 流れ込み: 排水や支流が合流する場所は、流れに変化が生まれ、エサとなる小魚が集まりやすいポイントです。
- 主なポイント: 丸子橋、六郷橋、ガス橋、大師橋などが有名です。知名度が少し下がるガス橋などは、比較的プレッシャーが低く、初心者でも入りやすいかもしれません。
- ルアー: まずは5cm~7cm程度の「ミノー」や「バイブレーション」と呼ばれる種類のルアーをいくつか揃えれば良いでしょう。
シーバス釣りについてより詳しく知りたい方は以下記事も参考にしてみてください。
【2025年版】シーバス釣りの完全ガイド!初心者向け釣り方(ルアー・餌)の種類とコツを徹底解説
クロダイ(チヌ):注目のフリーリグ釣法
近年、多摩川下流で人気が急上昇しているのが、クロダイ(チヌ)のルアーフィッシングです。警戒心が強く賢い魚ですが、その分、釣れた時の喜びは格別です。
この釣りで主流となっているのが「フリーリグ」という比較的新しい釣り方です。クロダイは、カキの殻がびっしり付いた場所(カキ瀬)や、ゴツゴツした石が転がっている場所(ゴロタ場)にいるカニなどを好んで食べます。このような場所は非常に「根掛かり(仕掛けが障害物に引っかかること)」しやすいのですが、フリーリグはこの問題を解決してくれます。
フリーリグは、オモリが糸の上を自由に動くのが特徴です。これにより、オモリが着底した後も、ワーム(疑似餌)がゆっくりと自然に漂い、根掛かりを回避しながらクロダイにアピールできるのです。この「根掛かりしにくい」という利点が、これまで攻めにくかったポイントを狙えるようにし、釣果を大きく伸ばしました。
- シーズンと時間: ベストシーズンは5月~7月です。潮が引いていく「下げ潮」の時間帯に川の流れが速くなり、クロダイの活性が上がることが多いです。
- 狙う場所: 河口近くの水深3mより浅い、カキ瀬やゴロタ場がメインのポイントです。
- ルアー: カニやエビを模した「ホッグ系ワーム」と呼ばれるソフトルアーが効果的です。
クロダイ釣りについてより詳しく知りたい方は以下記事も参考にしてください。
クロダイ(チヌ)のルアー仕掛けの紹介!チニングのコツも伝授します。
釣行前にチェック!持ち物と服装、守るべきルール

楽しい釣りは、万全の準備から始まります。特に夏場は、暑さや虫、日差しへの対策が釣果と同じくらい重要です。安全で快適な一日を過ごすためのチェックリストを確認しましょう。
夏の釣りを快適にする服装と必須アイテム
- 服装:
- 上着: 日焼けや虫刺されを防ぐため、速乾性のある長袖シャツが最適です。
- ズボン: 安全のため長ズボンが基本です。短パンの場合は下にレギンスなどを履きましょう。
- 帽子: 熱中症対策に必須。風で飛ばされないよう、あご紐付きのものが安心です。
- サングラス: 「偏光サングラス」は絶対に用意しましょう。水面のギラつきを抑えて水中を見やすくするだけでなく、万が一ルアーのハリが飛んできた際に目を守る、最も重要な安全具です。
- 靴: 滑りにくい運動靴やスニーカーが基本。サンダルは危険なので避けましょう。
夏の多摩川釣り 持ち物チェックリスト
カテゴリ | アイテム |
釣り道具 | 竿、リール、糸、仕掛け、エサ、クーラーボックス、ハサミ(ラインカッター) |
服装・装備 | 帽子、偏光サングラス、長袖シャツ、長ズボン、滑りにくい靴 |
安全・快適グッズ | ライフジャケット(必須!)、飲み物(多めに!)、日焼け止め、虫除け、救急セット |
あると便利 | ウェットティッシュ、ゴミ袋、魚つかみ(フィッシュグリップ)、ハリ外し用プライヤー、タオル |
多摩川で楽しく安全に釣りをするためのルールとマナー
多摩川は多くの人が利用する公共の場所です。全員が気持ちよく過ごせるよう、ルールとマナーを守ることが非常に重要です。
1. 守るべき公式ルール
- 遊漁券について: 多摩川では、「丸子橋」を境にルールが異なります。丸子橋より上流で釣りをする場合は、漁業協同組合が発行する「遊漁券(ゆうぎょけん)」の購入が法律で義務付けられています。今回ご紹介したテナガエビやハゼ釣りの主要ポイント(六郷橋、ガス橋、殿町など)は丸子橋より下流にあたるため、基本的に遊漁券は不要ですが、上流へ行く際は必ず事前に確認・購入してください。
- 竿の数: 多くのエリアで、一人で使える竿は2本までと定められています。
- 夜釣り: 公式には、ガス橋までの区間は夜釣りが禁止されています。安全のためにも、特に初心者のうちは明るい時間帯に釣りを楽しみましょう。
2. 釣り人としてのマナー
- ゴミは必ず持ち帰る: これが最も大切なマナーです。自分が出したゴミはもちろん、落ちているゴミも拾うくらいの気持ちで、釣り場を綺麗に保ちましょう。使い残したエサをその場に捨てるのもマナー違反です。
- 安全第一: ライフジャケットは必ず着用しましょう。特にテトラポッドのような滑りやすい場所や、お子様連れの場合は必須です。川の流れは見た目以上に速いことがあります。
- 挨拶と距離感: 先に釣りをしている人がいたら、「こんにちは」「お隣いいですか?」と一声かけるのがマナーです。人の仕掛けのすぐ近くに投げ込む「お祭り」はトラブルの原因になるので、十分な距離を保ちましょう。
- 駐車マナー: 路上駐車は絶対にやめましょう。事前にコインパーキングなどを調べ、決められた場所に駐車してください。
まとめ:多摩川下流で最高の夏の思い出を作ろう!
7月の多摩川下流は、釣りの楽しさが凝縮された最高のフィールドです。まずは手軽なテナガエビやハゼ釣りから始めて、川のせせらぎや生き物との駆け引きを楽しんでみてください。そして、釣りに慣れてきたら、シーバスやクロダイといった大物にもぜひ挑戦してほしいと思います。
多摩川は、私たちのすぐそばにある貴重な自然です。ルールとマナーを守り、感謝の気持ちを持って接することで、この素晴らしい環境を未来に残していくことができます。さあ、道具を準備して、潮の時間をチェックして、多摩川で最高の夏の思い出を作りに出かけましょう!