はじめに

夏の陽射しが水面を照らし、生命の息吹が満ち溢れる7月。日本最長の大河、信濃川はその雄大な流れに豊かな恵みをたたえ、私たち釣り人に最高の季節の到来を告げてくれます。特に河口から広がる下流域は、海水と淡水が混じり合う汽水域ならではの多様な魚たちが集まる、まさに釣りの楽園です。
この記事は、そんな7月の信濃川下流域での釣りに挑戦してみたい、特に初心者の方に向けた完全ガイドです。「どんな魚が釣れるの?」「どこで、どうやって釣ればいいの?」といった疑問を一つひとつ丁寧に解き明かし、あなたの釣行が成功に終わるよう、具体的でわかりやすい情報をお届けします。
本記事では、まず7月に狙える魅力的な魚たちをご紹介します。その後、メインターゲットとなる「シーバス」と「クロダイ」の攻略法を、ポイント選びから具体的な釣り方、おすすめの道具まで徹底的に解説。さらに、夏の夜の風物詩「ウナギ」や家族で楽しめる「ハゼ」釣りについても触れていきます。最後に、何よりも大切な安全ルールとマナーについてお伝えします。この一本の記事が、あなたの信濃川での素晴らしい釣りの第一歩となることを願っています。
7月の信濃川下流域で狙える魅力的な魚たち

7月の信濃川下流域は、水温の上昇とともに魚たちの活性がピークに達する絶好のシーズンです。多種多様な魚が狙えますが、今回は特に人気が高く、初心者でも挑戦しやすい4つのターゲットに焦点を当ててご紹介します。
- シーバス: ルアーフィッシングの代表的なターゲット。その力強い引きと美しい魚体から「川の王者」とも呼ばれ、多くのアングラーを魅了します。
- クロダイ(チヌ): 磯釣りや堤防釣りで人気の高い魚ですが、信濃川のような大河川でも狙うことができます。警戒心が高く、駆け引きが面白いターゲットです。
- ウナギ: 夏の夜釣りの風物詩。独特の仕掛けで静かにアタリを待つ釣りは、日中の喧騒を忘れさせてくれる魅力があります。
- ハゼ: 家族や友人と気軽に楽しめる釣りの入門に最適な魚。比較的簡単に釣ることができ、天ぷらにすると絶品です。
これらの魚たちは、それぞれに合った釣り方やポイントがあります。次のセクションから、一種ずつ詳しく見ていきましょう。
【最重要ターゲット】信濃川下流のシーバス攻略法

信濃川のシーバスフィッシングは、全国的にも人気が高く、多くのアングラーがそのスリリングなファイトを求めて集まります。シーバスは本来海の魚ですが、エサとなる小魚を追って河口から数十キロも遡上することがあり、信濃川下流域はまさに一級のフィールドと言えます。しかし、その人気ゆえに魚がスレている(警戒心が強い)ことも多く、釣果を出すには少しの知識と戦略が必要です。
なぜ7月はシーバスに最適なのか?
7月の信濃川下流域がシーバス釣りに最適な理由は、彼らの主食となるベイトフィッシュ(エサとなる小魚)が豊富になるからです。特にこの時期、「ハク」と呼ばれるボラの稚魚が大量に発生します。シーバスはこのハクを盛んに捕食するため、活性が非常に高くなります。
この生態を理解することが、釣果への一番の近道です。つまり、釣り人は「ハク」のサイズや動きを模倣したルアーを選択し、シーバスが捕食している場所に届けることができれば、ヒットの確率は格段に上がります。魚の行動はエサに直結しているため、7月はシーバスの居場所や食性が読みやすく、初心者にとっても絶好のチャンスとなるのです。
初心者におすすめのシーバスポイント
広大な信濃川を前にして、どこに投げればいいのかわからない、と感じるのは当然です。しかし、シーバスは川のどこにでもいるわけではありません。彼らは流れの変化や身を隠せる「ストラクチャー(障害物)」に集まる習性があります。初心者はまず、以下の3つのポイントに絞って探してみましょう。
- 橋脚(きょうきゃく): 川に架かる橋の土台部分は、流れを遮る絶好のストラクチャーです。流れが当たる側よりも、流れが緩やかになる「ヨレ」や「反転流」ができる下流側にシーバスは潜んでいることが多いです。
- 流れの変化がある場所: 川がカーブしている場所や、流れの中に大きな岩(瀬)がある場所では、流れの強弱が生まれます。特に、流れの速い本流と緩やかな岸際が接するような場所は、シーバスがエサを待ち伏せする絶好のポイントです。
- 河口域や常夜灯周り: 河口部は海と川が交わる場所であり、多様なベイトが集まります。また、夜間は港湾施設や橋の常夜灯の明かりに小魚が集まり、それを狙ってシーバスも寄ってくるため、ナイトゲームの有力なポイントとなります。
重要なのは、何もない広々とした場所を闇雲に狙うのではなく、こうした「変化」のある場所を見つけ出し、集中的に攻めることです。
デイゲームとナイトゲームの基本戦略
シーバス釣りは、日中に行う「デイゲーム」と夜間に行う「ナイトゲーム」で戦略が大きく異なります。
- デイゲーム(日中)の戦略日中は太陽光で明るいため、シーバスは警戒心が高まり、橋脚の影や水深のある場所(ボトム)に潜んでいることが多いです。炎天下での釣りは難易度が高いですが、リアクションバイトを誘う釣り方が有効になります。具体的には、重さのある「バイブレーション」というルアーを使い、川底まで沈めてから竿をしゃくり上げて落とす「リフト&フォール」や、底をコツコツと叩く「ボトムノック」というテクニックが実績の高いアクションです。
- ナイトゲーム(夜間)の戦略夜になるとシーバスは警戒心が薄れ、エサを求めて浅い場所まで出てきます。この時間帯は、水面近くを泳ぐ「フローティングミノー」が主役になります。特に7月は前述の「ハク」を意識しているため、ルアーのサイズを小さくすることが効果的です。水面を泳ぐルアーが夜空を背景にシルエットとなり、下から見上げるシーバスにとって格好のターゲットになります。
これだけは揃えたい!シーバス用ルアー徹底解説
信濃川は人気フィールドゆえに、シーバスが多くのルアーを見慣れており、一筋縄ではいかない場面もあります。そこで、状況に応じて使い分けられる、実績の高いルアーを揃えておくことが重要です。
- バイブレーション: デイゲームの切り札。遠投性に優れ、深いレンジを探るのに適しています。シルエットは小さめでも、飛距離を稼ぐためにある程度重さのあるモデルを選びましょう。メガバス社の「カットバイブ」は、水平に近い姿勢で泳ぐためシーバスの吸い込みが良く、ミスバイトを減らす工夫がされています。
- フローティングミノー: ナイトゲームの基本。特にメガバス社の「X-80SW」は、新潟の河川で絶大な信頼を得ているルアーの一つです。ただゆっくり巻くだけでなく、時折竿先を軽く弾く「ジャーク」を入れて不規則な動きをさせるのも有効です。
- ジグヘッドワーム(ソフトルアー): 最終兵器。硬い素材のルアーに全く反応しないスレたシーバスに対して、柔らかいワームの自然な動きは非常に効果的です。一つは必ずルアーボックスに忍ばせておきたい存在です。
- シンキングペンシル: 流れを攻略するルアー。遠投して流れに乗せ、自然に漂わせるように使うことで、警戒心の高いシーバスに口を使わせることができます。ダイワ社の「モアザン スイッチヒッター」などは、川の流れの中で使いやすいルアーとして知られています。
項目 | スペック | 備考 |
ロッド | 8フィート6インチ~9フィート6インチのシーバス用ロッド | 長すぎず短すぎず、扱いやすい長さがおすすめ。 |
リール | 2500番~3000番のスピニングリール | 汎用性が高く、シーバス釣りに最適なサイズ。 |
メインライン | PEライン 1号 | 強度が高く、感度に優れるため、ルアー釣りの主流。 |
リーダー | フロロカーボン 16lb~20lb (4~5号) | 根ズレに強いフロロカーボンを1mほど結束する。 |
スナップ | ルアー交換用スナップ | ルアーの交換が簡単になり、手返しが良くなる。 |
【2025年版】シーバス釣りの完全ガイド!初心者向け釣り方(ルアー・餌)の種類とコツを徹底解説
【力強い引きが魅力】クロダイ(チヌ)を狙う

シーバスが「動」の釣りなら、クロダイは「静」の駆け引きが魅力の釣りです。力強い引きと、その賢さから釣り人を熱くさせるターゲット。信濃川下流域では、護岸やテトラポッド帯でこのクロダイを狙うことができます。
クロダイ釣りのベストな時期と時間帯
クロダイは水温が上がる夏に活発にエサを探し回ります。特に6月から9月にかけては、中層から浅いタナ(水深)まで浮いてくることが多く、岸からの釣りで最も狙いやすいシーズンです。7月はまさにその最盛期にあたります。時間帯は、朝夕のマズメ時(日の出・日の入り前後)が最もチャンスですが、潮の動きや濁り具合によっては日中でも釣果が期待できます。
テトラ帯と護岸際が狙い目!主要ポイント紹介
クロダイはシーバス以上にストラクチャーに依存する魚です。彼らにとってストラクチャーは隠れ家であると同時に、重要なエサ場でもあります。
- テトラポッド帯: 最大の狙い目です。テトラポッドには、クロダイの好物であるイガイ(カラス貝)やカニ、フジツボなどがびっしりと付着しています。つまり、テトラポッドはクロダイにとっての巨大なレストランなのです。ただのコンクリートブロックではなく、生物の気配が濃い、黒や緑色に覆われたテトラポッドを探しましょう。
- 流れの淀み: 川の流れがテトラや護岸に当たることで、流れが緩やかになる「淀み」ができます。クロダイはこうした場所を好み、エサが流れてくるのを待っています。
- 河口の堤防: 信濃川河口の西突堤などは、古くからクロダイの大型実績が高いポイントとして知られています。ただし、後述する安全ルールの通り、立ち入りが制限されている場所も多いため、必ず現地の規則を確認してください。
初心者でも安心!「ぶっこみ釣り」の始め方
クロダイには「フカセ釣り」や「ヘチ釣り」など様々な釣法がありますが、初心者には最もシンプルな「ぶっこみ釣り」がおすすめです。仕掛けを投入したら、アタリを待つだけの簡単な釣り方です。
- 仕掛けを準備する: 下の表を参考に、シンプルなぶっこみ仕掛けを作ります。
- エサを付ける: 釣具店で手に入りやすい「アオイソメ」や「ユムシ」がおすすめです。特に太いアオイソメはアピール力が高く、クロダイに効果的です。
- ポイントに投入: テトラポッドの際や、流れの淀みに仕掛けを投入します。
- アタリを待つ: 竿を竿立てに置き、竿先が「コンコンッ、グーッ」と引き込まれるアタリを待ちます。クロダイのアタリは明確なことが多いですが、早合わせは禁物。しっかり重みが乗ってから合わせましょう。
項目 | スペック | 備考 |
竿 | 投げ竿や万能竿 | 3m前後の扱いやすいものでOK。 |
リール | 中型スピニングリール | 3000番前後が目安。 |
道糸 | ナイロン 3~4号 | |
オモリ | 中通しオモリ 8~15号 | 流れの速さに応じて重さを調整する。 |
ハリス | フロロカーボン 3~4号 (30~50cm) | 根ズレに強いフロロカーボンが有利。 |
ハリ | チヌ針 3~5号 | クロダイ専用のハリが掛かりやすい。 |
エサ | アオイソメ、ユムシなど | 釣具店で入手可能。 |
黒鯛釣りについて詳細を知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
クロダイ(チヌ)のルアー仕掛けの紹介!チニングのコツも伝授します。
【夏の夜の風物詩】ウナギ釣りに挑戦!

夏の夜、静寂に包まれた川辺でアタリを待つウナギ釣りは、日本の夏の原風景ともいえる趣のある釣りです。日中の暑さを避け、涼しい夜風に吹かれながら楽しむことができます。
ウナギが潜むポイントの見つけ方
ウナギは夜行性で、日中は障害物の隙間に身を潜めています。彼らの隠れ家となる場所を見つけることが、ウナギ釣りの第一歩です。
- 障害物周り: テトラポッドやゴロタ石(大きな石が転がっている場所)、護岸の石組みの隙間、沈んだ木などが絶好の隠れ家です。
- 流れの変化点: 小さな川の合流点や流れ込み、水の流れが巻いている反転流などは、エサが溜まりやすいためウナギが好んで集まるポイントです。
- カケアガリ: 川底が急に深くなる「カケアガリ(ブレイクライン)」は、ウナギの移動ルート(通り道)になりやすい場所です。
これらのポイントは、明るい日中のうちに見つけておきましょう。いわば、夜の釣りのための「探偵活動」です。目星をつけた場所に、日没とともに向かうのが効率的です。
ウナギ釣りの仕掛けとエサ
ウナギ釣りも、クロダイ同様にシンプルな「ぶっこみ釣り」が基本です。仕掛けを投入したら、竿先に鈴を付けてアタリを待ちます。
- 仕掛けと釣り方: 仕掛けは下の表を参考にしてください。ウナギのアタリは、鈴が「リン、リン…」と鳴ることでわかります。しかし、ウナギはエサをすぐに飲み込まず、時間をかけて食わえることが多いです。鈴が鳴り始めても慌てず、竿先が大きく引き込まれるか、糸が出ていくような本アタリが来るまでじっくり待ちましょう。
- エサ: ウナギ釣りの特効エサは、「ドバミミズ」と呼ばれる太いミミズです。釣具店で手に入るほか、湿った落ち葉の下などを探せば自分で採集することもできます。アユやサバの切り身なども、流れの速い場所でエサ持ちが良く、効果的なエサとなります。
項目 | スペック | 備考 |
竿 | ちょい投げ用の竿など | 特別な竿は不要。 |
リール | 小型~中型スピニングリール | 3000番クラス。 |
道糸 | ナイロン 3~5号 | 太めの糸が安心。 |
オモリ | 中通しオモリ 15~25号 | 流れに負けない重めのオモリを使用。 |
ハリス | 4号前後 (10~15cm) | |
ハリ | ウナギ針、丸セイゴ針 12~15号 | 吸い込みやすい専用針がおすすめ。 |
小物 | 竿先に取り付ける鈴(釣り鐘) | アタリを知らせる必須アイテム。 |
うなぎ釣りについて詳細を知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
【完全ガイド】初心者向け!今日から始める鰻(ウナギ)釣りのすべて
【ファミリーにもおすすめ】手軽に楽しむハゼ釣り
「もっと気軽に釣りを楽しみたい」「子供に釣りを体験させてあげたい」そんな方にはハゼ釣りがぴったりです。簡単な仕掛けで次々とアタリがあり、子供から大人まで夢中になれること間違いなしです。
どこで釣れる?ハゼのポイント
ハゼは河口近くの比較的流れが穏やかな砂泥底を好みます。家族で楽しむなら、安全性と利便性が重要です。
- 関屋分水路河口周辺: 駐車場やトイレが整備されており、家族連れに最適なポイントです。足場も比較的良いため、安心して釣りを楽しめます。
- 船着き場や石積み護岸: 船のスロープ周りや、川岸が石で積まれた場所はハゼの良い隠れ家になります。
重要なのは、快適に安全に楽しめる場所を選ぶことです。特に子供連れの場合は、足場の良い、車の心配がない公園などを選ぶと良いでしょう。
簡単な「チョイ投げ」でハゼを釣ろう
ハゼ釣りの基本は「チョイ投げ」です。文字通り、軽く仕掛けを投げるだけの簡単な釣り方です。市販のハゼ釣り用仕掛けセットと、エサのアオイソメがあればすぐに始められます。アオイソメを小さく切ってハリに付け、10~20mほど軽く投げます。仕掛けが底に着いたら、ゆっくりと竿を引いてハゼを誘います。「ブルブルッ」という小気味よいアタリが来たら、軽く竿を立てて合わせればOKです。
安全に釣りを楽しむための重要ルールとマナー

この章は、本記事で最も重要な部分です。どんなに素晴らしい釣果も、安全があってこそ。楽しい一日を最高の思い出にするために、必ず以下のルールを守ってください。
「立入禁止」エリアには絶対に入らない
信濃川下流域、特に新潟西港周辺には、釣り人が立ち入りを禁止されている場所が数多く存在します。
- 新潟市の漁港や港湾施設: 新潟市が管理する漁港の防波堤は、高波などの危険性が非常に高く、転落事故も発生していることから、立ち入りが禁止されています。また、新潟港湾事務所も、船舶の安全航行やテロ対策のため、港湾管理施設への立ち入りを禁止しています。
- 立ち入り禁止の看板やフェンス: 「立入禁止」の看板やフェンスは、あなたを守るために設置されています。たとえ釣れそうな場所に見えても、絶対に乗り越えたり、侵入したりしないでください。新潟西港のL字突堤のように、かつては人気の釣り場でも現在は立ち入り禁止となっている場所があります。
これらのルールを破ることは、命に関わる事故につながるだけでなく、罰則の対象となる可能性もあります。安全で許可された場所はたくさんあります。ルールを守って釣りを楽しみましょう。
ライフジャケットの着用と天候の確認
川や海の釣りでは、ライフジャケットの着用は必須です。特に足場の悪いテトラポッド帯などでは必ず身につけてください。また、海の天候は急変しやすいものです。釣行前には必ず天気予報や波の高さを確認し、少しでも危険を感じたら中止する勇気を持ちましょう。
ゴミは持ち帰る、釣り場をきれいに
美しい釣り場を未来に残すために、ゴミの持ち帰りは釣り人の最低限のマナーです。使い終わった仕掛けやエサの袋、弁当の容器など、自分が出したゴミはすべて持ち帰りましょう。来た時よりも美しい状態で釣り場を後にするくらいの気持ちが大切です。
まとめ
7月の信濃川下流域は、シーバスのダイナミックなファイト、クロダイとの知的な駆け引き、ウナギを待つ静かな夜、そして家族で楽しむハゼ釣りと、多彩な魅力に満ち溢れています。このガイドで紹介した知識と戦略を携えれば、初心者の方でも十分に釣果を期待できるはずです。
大切なのは、まず一歩を踏み出してみること。釣りは魚を釣ることだけがすべてではありません。川の流れを感じ、自然の中で過ごす時間そのものが、かけがえのない経験となります。
最後に、もう一度だけ。安全が最優先です。ルールとマナーを守り、周囲への配慮を忘れずに、信濃川での素晴らしい釣りを楽しんでください。あなたの竿に、最高の思い出が掛かることを心から願っています。