夏の猛暑が和らぎ、朝夕に涼しい風が吹き始める9月。雄大な利根川下流域は、一年で最も釣りが楽しめる黄金シーズンを迎えます。水の中では、夏を越えてたくましく成長した魚たちが、冬に備えて活発にエサを追い求め始めます。この絶好の機会に、釣りを始めてみませんか?
この記事では、広大な利根川下流域の中でも、特に初心者の方が挑戦しやすく、かつエキサイティングな釣りが楽しめる3つのターゲット、「シーバス」「ハゼ」「クロダイ」に絞って、その魅力と具体的な釣り方を徹底的に解説します。必要な道具から、具体的な釣り場の選び方、釣果を上げるためのちょっとしたコツまで、この記事を読めば、きっと自信を持って利根川のほとりに立てるはずです。さあ、秋の利根川で、忘れられない釣りの思い出を作りましょう。
秋の訪れ!9月の利根川下流が釣りのベストシーズンな理由

なぜ9月の利根川下流が、釣りを始めるのに最高の季節なのでしょうか。それには、自然界の明確な理由が3つあります。魚の気持ちになって考えてみると、その答えが見えてきます。
水温の低下と魚の活性化
真夏の高い水温は、人間だけでなく魚にとっても過酷な環境です。しかし9月に入ると、水温が徐々に下がり始め、魚たちにとって最も快適な「適水温」に近づきます。これにより、夏の間は体力を温存していた魚たちが一斉に活発になり、積極的にエサを探し回るようになります。これは、釣り人にとっては魚との遭遇率が格段に上がることを意味します。
ベイトフィッシュの豊富さ
「ベイトフィッシュ」とは、大型魚のエサとなる小魚のことです。9月の利根川下流では、春に生まれたボラの子供である「イナッコ」が10cmから15cmほどに成長し、川の至る所で大群をなして泳ぎ回ります。これを狙って、シーバスなどの肉食魚が浅いエリアまで集まってくるのです。つまり、川全体が巨大なビュッフェ会場と化し、普段は警戒心の強い大物も、食欲に駆られて大胆にルアーにアタックしてくる可能性が高まります。この現象は、魚たちが厳しい冬を乗り越えるために、体にエネルギーを蓄えようとする本能的な行動です。そのため、この時期の魚は非常に貪欲で、釣りやすい状態にあると言えます。
釣り人にとっても快適な気候
厳しい日差しや熱中症のリスクが減り、過ごしやすい気候になることも大きなメリットです。初心者が釣りに集中し、じっくりと技術を学ぶには最適な環境です。朝の清々しい空気の中、あるいは夕暮れの美しい景色を眺めながら、快適に釣りを楽しむことができます。
初心者でも楽しめる!9月の利根川下流 3大ターゲット魚種と釣り方

9月の利根川下流では多種多様な魚が釣れますが、今回は特に初心者の方におすすめしたい、魅力あふれる3魚種を厳選しました。それぞれの魚の習性を理解し、正しいアプローチを学べば、釣りの楽しさを存分に味わえるはずです。
川の王者を狙え!大興奮のシーバスゲーム
シーバス(スズキ)は、その力強い引きと美しい魚体から、ルアーフィッシングのターゲットとして絶大な人気を誇ります。特に利根川は、メータークラスの超大物も夢ではない、関東屈指のフィールドとして知られています。
秋の風物詩「イナッコパターン」を徹底解説
9月の利根川シーバスを攻略する上で、最も重要なキーワードが「イナッコパターン」です。これは、シーバスが主食としてイナッコの群れを追い回す捕食行動のことです。
釣り場でこのパターンを見つけるには、まず水面を注意深く観察することから始まります。水面がざわついていたり、小さな波紋が広がっていたりすれば、それはイナッコの群れがいるサインかもしれません。そして、その群れの近くで「バシャッ!」という激しい水しぶきが上がったら、それがシーバスの捕食シーン、いわゆる「ボイル」です。このボイルを見つけられれば、釣果は目前と言っても過言ではありません。
釣果を左右する重要ポイント
シーバスは賢い魚で、ただやみくもにルアーを投げても釣れません。彼らがエサを待ち伏せする「一級ポイント」を知ることが、釣果への近道です。その共通点は「流れの変化」です。
- 流れの変化がある場所: シーバスは、流れに乗って弱ったベイトフィッシュが流れてくるのを効率よく捕食します。そのため、流れに変化が生まれる場所に潜んでいます。代表的なのが銚子大橋周辺の橋脚です。橋脚が流れを遮ることで、その後ろに流れが緩む「ヨレ」ができます。シーバスはこのヨレに身を潜め、目の前を通り過ぎるベイトを狙っています。
- 水門の周辺: 利根川下流の象徴的な建造物である**利根川河口堰(逆水門)**は、超一級のシーバスポイントです。この水門が開くと、堰の上流から大量の水と共にベイトフィッシュが放出され、強烈な流れが発生します。これはシーバスにとって「食事の時間」を知らせるゴングのようなもの。水門の開閉は放送で知らされることもあるので、耳を澄ませておきましょう。特に、千葉県側の1~2番ゲートや茨城県側の8~9番ゲートが開いた際は、ルアーが届く範囲に絶好の流れが生まれるチャンスです。
- 朝マズメ・夕マズメ: 魚の捕食活動が最も活発になる時間帯、それが「マズメ」と呼ばれる日の出と日没の前後です。この時間帯は、イナッコの群れも活発に移動するため、シーバスのボイルが頻発します。特に、潮が引いていく「下げ潮」とマズメが重なるタイミングは、川の流れが最も強くなり、ベイトが流されやすくなるため、最高のチャンスタイムとなります。
初心者向けルアーアクションと釣り方
複雑な操作は必要ありません。まずは基本の2つのテクニックを覚えましょう。
- 基本は「ただ巻き」: ルアーを投げて、一定のスピードでリールを巻くだけの最もシンプルな方法です。しかし、これが非常に効果的。イナッコの群れが泳ぐスピードをイメージしながら、ゆっくり巻いたり、少し速く巻いたり、スピードに変化をつけるだけでシーバスの反応が変わります。
- 流れに乗せる「ドリフト」: 少し応用編ですが、利根川では必須のテクニックです。これは、ルアーを流れに同調させて自然に漂わせる釣り方です。狙いたいポイントの少し上流にルアーを投げ、糸を張りすぎず緩めすぎずの状態を保ちながら、ルアーが流れの力でポイントを通過するように操作します。まるで本物のイナッコが流されているように見せかけることができ、警戒心の強いシーバスにも口を使わせることができます。
- 表層系ルアーの選び方: イナッコパターンでは、水面や水面直下を泳ぐルアーが主役になります。水面で波紋を立てながら泳ぐ「ウェイクベイト」や、水面を滑るようにアクションする「トップウォータープラグ」、そして水面直下を弱々しく漂う「シンキングペンシル」などが実績の高いルアーです。水面を割ってシーバスがルアーに襲いかかる瞬間は、一度味わうと忘れられない興奮があります。
これだけは揃えたい!シーバスタックル入門
シーバス釣りは、ターゲットの大きさとパワーに合わせて、専用の道具を揃えることが釣果への第一歩です。
- ロッド(竿): 遠投性能と操作性のバランスが良い、長さ9フィート(約2.7m)から9.6フィート(約2.9m)のものが万能です。硬さは「ML(ミディアムライト)」クラスが、様々な重さのルアーを扱いやすくおすすめです。
- リール: ロッドとのバランスを考え、2500番から4000番サイズのスピニングリールを選びましょう。初心者が最初に選ぶなら、3000番が最も汎用性が高く扱いやすいです。
- ライン(道糸): 飛距離と感度に優れる「PEライン」が主流です。まずは扱いやすさと強度のバランスが取れた「PE1.0号」を150mほど巻きましょう。
- リーダー(先糸): PEラインは摩擦に弱いため、先端に「ショックリーダー」と呼ばれる太い糸を結ぶ必要があります。魚からラインを見えにくくし、ヒットした際の衝撃を和らげる役割もあります。素材は根ズレに強いフロロカーボンで、太さは16lb(ポンド)から20lb(4~5号)が標準です。
家族で満喫!手軽で美味しいハゼ釣り
シーバスのような大物狙いも魅力的ですが、「まずは気軽に釣りの楽しさを味わいたい」「家族や友人と一緒にのんびり楽しみたい」という方には、ハゼ釣りが断然おすすめです。
なぜハゼ釣りは初心者に最適なのか?
ハゼ釣りには、初心者を夢中にさせる魅力がたくさん詰まっています。
まず、高価な道具は必要なく、手軽なタックルで始められます。そして何より、釣れる確率が非常に高いこと。好奇心旺盛なハゼは、目の前にエサがあればすぐに食いついてきます。安全な足場から楽しめるポイントが多く、小さなお子様連れでも安心です。そして釣った後の楽しみも格別。天ぷらにすれば、その上品な白身の味に驚くはずです。
イチオシの釣り場「桜井町公園」
利根川下流域には無数のハゼ釣りポイントがありますが、初心者や家族連れに特におすすめしたいのが、銚子市豊里地区にある「桜井町公園」です。
この公園は、護岸のすぐ近くまで車で乗り入れ可能な無料駐車場、清潔な公衆トイレ、広々とした芝生の広場が完備されており、まさに至れり尽くせり。足場もコンクリートで整備されているため安全です。かつては「尺ハゼの里」と呼ばれ、30cm近い大物が釣れたという伝説もあるほど、魚影の濃さはお墨付きです。
2つの基本釣法「チョイ投げ」と「穴釣り」
桜井町公園では、2つの釣り方でハゼを狙うことができます。これらはハゼ釣りの基本であり、釣りの面白さが凝縮されています。
- チョイ投げ (Choi-nage / Light Casting): 広い範囲を探るための最も基本的な釣り方です。仕掛けを10mから20mほど軽く投げ、オモリが川底に着底したら、ゆっくりとリールを巻いて仕掛けをズルズルと手前に引いてきます。ハゼがいれば「ブルブルッ!」という明確なアタリが竿先に伝わってきます。この小気味よい感触が、ハゼ釣りの醍醐味です。この釣り方は、底の地形を感じ取る練習にもなり、シーバスやクロダイ釣りにも繋がる重要な基本技術を自然と身につけることができます。
- 穴釣り (Ana-zuri / Hole Fishing): 護岸をよく見ると、コンクリートブロックの隙間にたくさんの穴が開いているのがわかります。実は、大型のハゼほどこうした物陰に隠れる習性があり、この穴は彼らにとって絶好の隠れ家なのです。穴釣りは、この隙間に直接エサを付けた仕掛けをそっと落とし込み、アタリを待つという、まるで宝探しのような釣り方です。仕掛けを動かすよりも、じっと待っている方が食ってくることが多いようです。足元で大物がヒットするスリルは格別で、特に子供たちに大人気の釣り方です。
ハゼ釣りの基本タックルとエサ
高価な道具は一切不要です。釣具店で手に入る入門用のセットで十分に楽しめます。
- タックル: 長さ1.8mから2.7m程度の万能竿やコンパクトロッドのセットがおすすめです。リールは小型のスピニングリール(2000番~2500番)で十分です。
- ライン(道糸): 初心者でも扱いやすいナイロンラインの2号か3号をリールに巻いておけば問題ありません。
- 仕掛け: 釣具店で「ハゼ釣り用チョイ投げ仕掛け」として売られている完成品を使いましょう。天秤とオモリ、針がセットになっているので、道糸に結ぶだけで準備完了です。根掛かりで失うこともあるので、予備をいくつか持っていくと安心です。
- エサ: 生きているイソメ(ゴカイ)が最も効果的です。「アオイソメ」や「アカイソメ(石ゴカイ)」を釣具店で購入しましょう。針には、頭の硬い部分から刺し、垂らしが1cm程度になるように切って使うのが基本です。
知的な駆け引きが面白い!ルアーで狙うクロダイ(チニング)
シーバスの豪快さ、ハゼの手軽さとはまた一味違う、奥深いゲーム性を楽しめるのがクロダイ(チヌ)釣りです。近年、「チニング」というルアーで狙うスタイルが人気を集めています。
話題の「チニング」に挑戦しよう
チニングは、ワームやプラグといったルアーを使い、クロダイの捕食本能を刺激して釣る、アクティブで戦略的な釣りです。クロダイはタイの仲間特有の、首を振るような力強い引きが特徴で、一度味わうと病みつきになる魅力があります。雑食性で好奇心旺盛なため、ルアーにも果敢にアタックしてきます。
クロダイが潜む場所の見つけ方
クロダイは、身を隠せる障害物や、エサとなるカニや貝類が豊富な場所を好みます。キーワードは「硬い底」と「障害物」です。
川底が砂や泥だけでなく、カキの殻が堆積した場所(カキ瀬)や、岩、コンクリートブロックが沈んでいるような場所は、絶好のチニングポイントです。実は、こうした場所はハゼが好む環境と非常によく似ています。ハゼが釣れるポイントには、クロダイのエサとなるカニやエビも多く生息しているため、クロダイ自身も集まってきやすいのです。つまり、ハゼ釣りをしながら「ここは根掛かりが多いな」「底がゴツゴツしているな」と感じた場所こそ、有望なチニングポイントである可能性が高いのです。一つの釣りから得た情報が、次の釣りに繋がる。これも釣りの面白さの一つです。
基本はコレだけ!「ズル引き」テクニック
チニングの最も基本的かつ効果的なテクニックが「ズル引き」です。名前の通り、ルアーを川底でズルズルと引きずってくるだけのシンプルな方法ですが、これが川底を這うカニやエビを完璧に模倣します。
やり方は簡単。ルアーをキャストし、底に着くまで沈めます(「着底」や「ボトムを取る」と言います)。着底したら、ルアーが底から浮き上がらないように、ゆっくりとリールを巻くだけです。時々「コツコツ」と底の障害物に当たる感触が手元に伝わってきます。その感触を感じながら、時折リールを巻くのを止めて食わせる「間」を作ってあげるのも効果的です。アタリは「コンッ」という小さなものから、竿先をグッと押さえ込むようなものまで様々。この駆け引きがチニングの醍醐味です。
チニング入門タックル
チニングは繊細なアタリを取るため、専用のタックルが理想ですが、他の釣り具でも代用可能です。
- ロッド(竿): ルアーの操作がしやすく、感度の良い7フィート(約2.1m)から8フィート(約2.4m)程度のチニング専用ロッドがベストです。ライトなシーバスロッドやバスロッドでも代用できます。
- リール: 2500番サイズのスピニングリールが標準です。素早く糸フケを回収してフッキングを決めるために、ハンドル一回転あたりの巻き取り量が多い「ハイギア」モデルが有利とされています。
- ライン(道糸): 感度を重視し、PEラインの0.6号から0.8号を使用します。
- リーダー(先糸): カキ殻などでのラインブレイクを防ぐため、根ズレに強いフロロカーボンラインの12lb(3号)程度を結びましょう。
- ルアー: まずはカニやエビを模した「クロー系ワーム」から始めるのがおすすめです。これを「ジグヘッド」や「フリーリグ」と呼ばれる仕掛けにセットして使います。特にフリーリグは根掛かりを回避しやすく、ワームが自然な動きを演出しやすいため、初心者にも扱いやすい仕掛けです。
迷ったらコレ!魚種別おすすめタックル比較表

釣具店に行くと、たくさんの道具が並んでいて迷ってしまうかもしれません。そんな時は、この表を参考にしてください。それぞれの釣りに最適な、標準的なタックルセッティングをまとめました。
ターゲット (Target) | ロッド(長さ/硬さ)(Rod: Length/Power) | リール(番手)(Reel: Size) | メインライン (Main Line) | リーダー (Leader) |
シーバス (Seabass) | 9ft (2.7m)前後 / MLクラス | 3000番 | PE 1.0号 | フロロカーボン 4号 (16lb) |
ハゼ(チョイ投げ)(Goby) | 1.8m~2.7m コンパクトロッド | 2000~2500番 | ナイロン 2~3号 | (ナイロンの場合不要) |
クロダイ(チニング)(Bream) | 7ft後半 (2.3m) / L~MLクラス | 2500番 | PE 0.6~0.8号 | フロロカーボン 3号 (12lb) |
安全に楽しむために。利根川のルールとマナー

釣りは自然を相手にする遊びです。最高の思い出を作るためには、安全管理とマナーの遵守が何よりも大切です。これらは、自分自身を守るためだけでなく、釣りという素晴らしい文化を未来に残していくために、釣り人一人ひとりが守るべき「心構え」でもあります。
- ライフジャケットは必ず着用: これが最も重要なルールです。利根川は流れが穏やかに見えても、場所によっては強く、水深も深いです。万が一の落水に備え、体にフィットしたライフジャケットを必ず着用してください。
- 天候と潮の確認: 出かける前には、必ず天気予報と潮汐表(タイドグラフ)を確認する習慣をつけましょう。天候の急変は危険を伴いますし、潮の動きは魚の活性に直結します。
- 先行者への配慮: 釣り場に先にいる人がいたら、その人が優先です(先行者優先)。挨拶をしてから、十分に距離(最低でも5m~10m)をとって釣りを始めましょう。気持ちの良いコミュニケーションが、トラブルを防ぎます。
- ゴミは必ず持ち帰る: 釣り場にゴミを放置することは、絶対にやめましょう。使った仕掛けのパッケージ、エサの容器、飲み物のペットボトルなど、自分が出したゴミはすべて持ち帰るのが鉄則です。釣り場を来た時よりも美しくするくらいの気持ちが大切です。
- 立ち入り禁止区域には入らない: 「立入禁止」の看板がある場所や、柵で囲われた場所には絶対に入らないでください。危険な場所であったり、私有地であったりします。
- 駐車場所と騒音に注意: 車は指定された駐車スペースに停め、近隣住民の迷惑にならないようにしましょう。特に早朝や夜間は、車のドアの開閉音や話し声が響きやすいので、静かに行動することを心がけてください。
まとめ:秋の利根川で、最高の釣りの思い出を
9月の利根川下流は、まさに釣りのパラダイスです。豪快なファイトが楽しめる「シーバス」、家族で気軽に楽しめる「ハゼ」、そして奥深い駆け引きが魅力の「クロダイ」。どの釣りも、きっと忘れられない体験をもたらしてくれるでしょう。
この記事では、釣りを始めるために必要な知識を網羅的に解説しました。しかし、一番大切なのは、まず一歩を踏み出して、川のほとりに立ってみることです。自然の中で竿を出し、魚からの反応に一喜一憂する時間は、何物にも代えがたいものです。
安全対策とマナーをしっかりと守り、秋の豊かな自然に感謝しながら、最高の釣りを楽しんでください。皆さんの釣行が、素晴らしい思い出となることを心から願っています。