都会の喧騒からほんの少し足を延せば、そこには雄大な自然が広がる多摩川があります。特に7月は、川の生命力があふれ、多くの魚たちが活発に動き出す絶好のシーズン。この記事では、2025年の夏、多摩川中流域で釣りを始めてみたいと考えている初心者の方へ向けて、狙える魚から具体的な釣り場のポイント、そして明日からすぐに使える釣り方まで、網羅的に、そして丁寧に解説していきます。多摩川は、都心からアクセスしやすい身近な楽園であると同時に、時に自然の厳しさを見せる力強い川でもあります。その魅力を最大限に楽しみ、安全に一日を過ごすための知識を、この一本に凝縮しました。
7月の多摩川中流で狙える!魅力的なターゲット魚5選

7月の多摩川中流域は、驚くほど豊かな生態系を誇ります。流れの速い瀬から、ゆったりとした淵、身を隠せるテトラポッド帯まで、変化に富んだ環境が多様な魚たちを育んでいます。初心者の方がこの時期にどんな魚を狙えるのか、まずは一目でわかる早見表でご紹介しましょう。
表1: 7月の多摩川中流 ターゲット魚早見表
魚種 | 狙いやすい時間帯 | 釣りの難易度 (初心者基準) | 主な釣り方 |
スモールマウスバス | 朝マヅメ・夕マヅメ | ★★☆☆☆ | ルアーフィッシング |
アユ | 日中 | ★★★☆☆ | アユイング(ルアー釣り) |
ナマズ | 夜間 | ★☆☆☆☆ | ぶっこみ釣り |
オイカワ・ウグイ | 日中・夕マヅメ | ★☆☆☆☆ | ウキ釣り |
コイ | 日中 | ★★☆☆☆ | ぶっこみ釣り |
この表を参考に、ご自身のスタイルや時間に合わせてターゲットを選んでみてください。それでは、それぞれの魚の魅力について、もう少し詳しく見ていきましょう。
スモールマウスバス – 多摩川のパワフルファイター
多摩川でルアーフィッシングのターゲットとして絶大な人気を誇るのが、スモールマウスバスです。エサへの反応が非常にアグレッシブで、一度ハリ掛かりすると力強く抵抗するため、釣り人とのスリリングなファイトを楽しませてくれます。7月は高活性な時期で、特に朝夕の涼しい時間帯(マヅメ時)には、果敢にルアーへアタックしてくるでしょう。
アユ – 夏の風物詩を釣る喜び
日本の夏の風物詩ともいえるアユ。多摩川は天然遡上のアユが多く、その魚影の濃さは全国的にも知られています。7月に入るとアユは大きく成長し、エサとなる良質なコケを求めて縄張りを持つようになります。この縄張り意識を利用した釣りがアユ釣りの醍醐味。かつては専門的な「友釣り」が主流でしたが、近年では初心者でも手軽に楽しめるルアー釣りが可能になり、憧れのアユがより身近な存在になりました。
ナマズ – 夜の静寂を破る大物
大きな口と長いヒゲが特徴的なナマズは、夜の多摩川の主役です。日中は物陰に隠れていますが、日没と共に活発にエサを探し始めます。多摩川には大型のナマズが数多く生息していることでも有名で、その強烈な引きは一度味わうと病みつきになること間違いなし。日中の釣りが難しい方でも、仕事終わりの夕涼みがてら大物との出会いを期待できるのが魅力です。
オイカワ・ウグイ – 手軽に楽しめる川のアイドル
「とにかく何か釣ってみたい!」という初心者の方や、ご家族での釣りに最もおすすめなのがオイカワやウグイです。川の中を覗くとキラキラと光る魚体が群れているのが見え、比較的簡単に釣ることができます。特に繁殖期のオイカワのオスは、息をのむほど美しい婚姻色に染まります。夕暮れ時は特に活性が上がり、入れ食い状態になることも珍しくありません。
コイ – 身近ながらも奥深いターゲット
橋の上からでも悠然と泳ぐ姿を見ることができる、多摩川で最も身近な大物、コイ。警戒心が強く賢い魚ですが、シンプルなエサ釣りで狙うことができ、その重量感あふれる引きは格別です。流れの緩やかな場所に潜んでいることが多く、じっくりとアタリを待つ釣りは、川のせせらぎを聞きながら過ごす穏やかな時間を提供してくれます。
初心者でも安心!多摩川中流のおすすめ鉄板釣り場ガイド

「多摩川中流」と一言で言っても、その範囲は広大です。ここでは、特に初心者の方がアクセスしやすく、釣果も期待できる「鉄板」エリアを3つに絞ってご紹介します。釣り場を選ぶ際は、川の地形を意識するのが釣果への近道です。「瀬(せ)」と呼ばれる浅く流れの速い場所、「淵(ふち)」や「トロ場(とろば)」と呼ばれる深く流れの緩い場所、そして魚の隠れ家になる「テトラ帯」など、それぞれの魚が好む環境を知っておきましょう。
登戸・宿河原エリア – アクセス抜群で多彩な魚種
小田急線やJR南武線の駅から徒歩圏内というアクセスの良さが最大の魅力です。このエリアには「二ヶ領宿河原堰(にかりょうしゅくがわらぜき)」という堰があり、その周辺は地形の変化に富んでいます。堰の下流に広がる瀬ではアユやオイカワ、ウグイが盛んにエサを追い、少し流れが緩やかになるトロ場ではコイやナマズが狙えます。足場が良い場所も多く、親子連れでも安心して楽しめるポイントです。
二子玉川エリア – おしゃれな街と豊かな自然の融合
駅周辺の賑わいとは対照的に、河原に下りれば豊かな自然が広がっています。このエリアは、大小の石が川底に点在する瀬が多く、アユ釣りの一級ポイントとして知られています。特に橋脚周りは流れが複雑になり、魚が集まりやすい絶好の狙い目。近年解禁されたアユのルアーフィッシング(アユイング)を試すには最適な場所と言えるでしょう。
府中・稲城エリア – 広々とした河原で楽しむ
稲城大橋や多摩川原橋周辺は、広々とした河原が特徴で、ゆったりと釣りを楽しむことができます。この一帯は「ザラ瀬」と呼ばれる砂利底の浅い瀬が続いており、オイカワやアユの数釣りが期待できます。また、稲城大橋の近くには「ワンド」と呼ばれる流れの緩やかな入り江状の地形があり、ここはスモールマウスバスが好んで集まる実績の高いポイントです。
魚種別!明日から使える初心者向け釣り方講座

ここでは、先ほど紹介した魚たちを釣るための具体的な方法を解説します。釣りを始めるにあたり、「魚ごとに高価な道具を揃えなければいけないのでは?」と心配になるかもしれませんが、ご安心ください。実は、1本の竿で複数の魚を狙うことも可能です。ここでは、初期投資を抑えつつ、多摩川の釣りを満喫するための道具選びと釣り方をご紹介します。
スモールマウスバス狙いの「ルアーフィッシング」
- タックル(道具):長さ6~7フィート(約1.8~2.1m)で、少し柔らかめのスピニングロッド(L~MLクラス)が万能です。リールは2500番サイズのスピニングリール、ライン(釣り糸)はフロロカーボン素材の4~6ポンドがおすすめです。
- ルアーと釣り方:多摩川のスモールマウスバス攻略の鍵は「ドリフト釣法」です。これは、ルアーを流れに乗せて自然に漂わせ、エサが流れてくるのを待ち構えているバスに口を使わせるテクニック。流れの中にある岩や流れのヨレの上流側にルアーを投げ入れ、糸を張りすぎずに流し込むのがコツです。シャッドテールやイモグラブといった小さなワームを、軽いオモリ(ジグヘッドリグやダウンショットリグ)で使うのが効果的。朝夕のマヅメ時には、ポッパーなどのトップウォータールアーを水面で操ると、バスが水面を割って飛び出してくるエキサイティングな釣りが楽しめます。
アユを狙う「アユイング(アユのルアー釣り)」
- 初心者にとっての革命:アユイングは、専門的で敷居の高かったアユ釣りを、ルアーで手軽に楽しめるようにした画期的な釣り方です。多摩川漁協でも近年解禁され、多くの釣り人が楽しんでいます。
- タックル:驚くことに、スモールマウスバスで使ったスピニングタックルをそのまま流用できます。これが、初心者が最初に揃えるタックルとしてバスロッドをおすすめする理由の一つです。
- ルアーと釣り方:アユイング専用のミノー(小魚型のルアー)を使います。釣り方は、縄張りを持つアユの習性を利用します。瀬の中にいる縄張りアユの領域に、自分のルアー(偽のアユ)を侵入させ、追い払おうと体当たりしてきたところをハリに掛けるというもの。川の流れに対して斜め上流にルアーを投げ、川を横切らせるように扇状にゆっくりと引いてくるのが基本です。川底に良い石がゴロゴロしている場所が、アユの縄張りになっている可能性が高いポイントです。
ナマズ・コイを狙う「ぶっこみ釣り」
- コンセプト:オモリとエサを付けた仕掛けを川に投げ込み(ぶっこみ)、魚が掛かるのをのんびり待つという、非常にシンプルで簡単な釣り方です。夕涼みをしながら、あるいは日中にのんびりと楽しむのに最適です。
- タックル:安価な万能竿とリールのセットで十分楽しめます。ただし、ナマズもコイも大物なので、リールに巻くラインはナイロン素材の10ポンド以上の太めのものを選んでおくと安心です。
- 仕掛け:メインのラインに「中通しオモリ」(流れの強さに応じて10g前後から)を通し、その先に「サルカン(ヨリモドシ)」を結びます。サルカンの反対側に、ハリス(短い糸)付きのハリ(鯉バリやセイゴバリの12~13号)を結べば完成です。
- エサ:ナマズには匂いの強いドバミミズや魚の切り身が、コイには同じくミミズのほか、釣具店で売っている専用の練りエサが非常に効果的です。
- コツ:夜釣りでアタリを待つ際は、竿先に「鈴」や「ケミホタル」という化学発光体を付けておくと、暗闇でもアタリが分かりやすくなります。
オイカワ・ウグイと遊ぶ「ウキ釣り」
- 究極の入門釣り:釣りの楽しさを最も手軽に、そして確実に味わえるのがこのウキ釣りです。
- タックル:リールのないシンプルな「のべ竿」がおすすめです。長さは3.6m~4.5m程度が扱いやすく、釣具店ではウキやハリなどがすべてセットになった「仕掛けセット」が販売されているので、まずはそれを購入しましょう。
- 釣り方:ウキ釣りの基本は「仕掛けを自然に流す」こと。自分の立ち位置より少し上流に仕掛けを振り込み、ウキが流れに乗って自然に下流へ流れていくように竿を操作します。ウキが「ピクピクッ」と動いたり、水中に「スッ」と引き込まれたりしたら、それがアタリのサインです。
- エサ:オイカワたちの口は小さいので、エサも小さくします。ミミズを小さく切ったものや、「サシ」と呼ばれる小さな幼虫、あるいはチューブから出してハリに付けるだけの練りエサなどが手軽で効果的です。
多摩川で楽しく安全に釣りをするための重要ルール

多摩川という素晴らしい釣り場を将来にわたって楽しむためには、すべての釣り人がルールとマナーを守り、何よりも安全を最優先することが不可欠です。ここでは、釣りを始める前に必ず知っておくべき重要な事柄を解説します。
まずは必須!「遊漁券」について
多摩川の多くの区間では、漁業協同組合が魚の放流や産卵場の整備などを行い、川の資源を管理しています。私たちが釣りを楽しむためには、その活動を支えるためのお金、すなわち「遊漁券(ゆうぎょけん)」を購入する必要があります。これは単なる料金ではなく、川の環境を守り、未来の釣りの楽しみへと繋がる大切な投資です。
府中市や調布市、稲城市といった中流域の大部分は「内共3号」という区、多摩川原橋から下流のガス橋までは「内共12号」という区にあたります。遊漁券は、現地の釣具店や一部のコンビニエンスストア、または「つりチケ」などのオンラインサービスで購入できます。監視員から直接購入することもできますが、割高になる場合が多いため、事前の購入がおすすめです。
表2: 多摩川中流 遊漁券(内共3号・12号)料金・種類(初心者向け抜粋)
券種 | 対象魚種 | 料金(日券 / 年券) | 備考 |
雑魚券 | ふな、うぐい、おいかわ | ¥500 / ¥2,500 | オイカワやウグイのウキ釣りを楽しむならこちら。 |
共通券 | あゆ、こい、うなぎ、ふな、うぐい、おいかわ | ¥1,000 / ¥5,000 | **一番おすすめ。**バス、アユ、コイ、ナマズなど幅広く狙うなら必須。 |
※小学生以下は無料です。 |
必ず守ろう!釣り場のルールとマナー
- 釣りをして良い時間:原則として「日の出から日没まで」です。ナマズ釣りなどで夜釣りをする場合もありますが、安全のためにも特に初心者のうちは日中の釣りを心がけましょう。
- 竿の本数:一人で同時に出してよい竿は2本までと決められています。
- 持ち帰って良いサイズ:未来の川の豊かさを守るため、小さな魚はリリース(再放流)するルールがあります。例えば、アユは全長10cm以下、コイは18cm以下、ウナギは26cm以下のものは持ち帰れません。
- 基本的なマナー:「来た時よりも美しく」を合言葉に、ゴミは必ず持ち帰りましょう。先行者がいる場合は挨拶をし、十分な距離を保つなど、お互いが気持ちよく釣りを楽しめるように配慮することが大切です。
命を守るために。川の増水には最大限の注意を
川釣りで最も注意すべき危険は、天候の急変による「川の増水(鉄砲水)」です。楽しい一日が悪夢に変わらないよう、以下のサインとルールを絶対に守ってください。
- 増水の危険な兆候
- 自分がいる場所は晴れていても、上流の空に黒い雲が見える。
- 川の水が急に濁り始める、笹濁りになる。
- 木の葉や枝、ゴミなどが流れてくる。
- 川の流れる音が「ゴーッ」という地鳴りのような音に変わる。
- 命を守るための絶対ルール
- 天気予報を確認する:釣行前には、自分のいる場所だけでなく、多摩川の上流域全体の天気予報を確認しましょう。
- 中州には絶対に行かない:川の真ん中にある中州は、増水時に逃げ場がなくなり非常に危険です。休憩や釣りで立ち入るのは絶対にやめましょう。
- ライフジャケットを着用する:万が一の落水に備え、特に川に立ち込む(ウェーディングする)場合は必ずフローティングベストを着用しましょう。
- 危険な兆候を感じたら即避難:上記のサインを一つでも感じたら、「まだ大丈夫だろう」と決して思わず、すぐに川から離れて高い場所に避難してください。
- 適切な履物を選ぶ:滑りにくい長靴やウェーダーを履くことで、安全な足場を確保しやすくなります。
さあ、夏の多摩川へ釣りに出かけよう!
7月の多摩川は、初心者からベテランまで、あらゆる釣り人を温かく迎え入れてくれる懐の深いフィールドです。まずは手軽なオイカワのウキ釣りや、シンプルなぶっこみ釣りから始めて、川の雰囲気や魚のアタリを感じてみるのがおすすめです。
多摩川は、私たちのすぐそばにある貴重な自然の財産です。ルールとマナーを守り、安全を第一に考えることで、きっと忘れられない素晴らしい夏の思い出が作れるはず。さあ、道具を手に、夏の多摩川へ出かけてみませんか。