全国にその名を轟かせるバス釣りの聖地、福岡県の遠賀川。トーナメントも数多く開催されるこのメジャーフィールドは、多くのアングラーにとって憧れの場所であり、同時に手強い相手でもあります。特に6月は、産卵を終えたバスたちが体力を回復させる「アフタースポーン」という特殊な時期。一筋縄ではいかないこの季節ですが、正しい知識と戦略があれば、初心者の方でも記憶に残る一匹と出会える絶好のチャンスが眠っています。
この記事では、2024年の6月の遠賀川を攻略するための完全ガイドとして、アフタースポーン期のバスの生態から、具体的なポイント選び、そして初心者でも真似しやすい釣り方まで、全ての情報を網羅しました。この一本を読めば、自信を持って遠賀川の岸辺に立ち、最高のバスフィッシングを体験できるはずです。さあ、一緒に6月の遠賀川を解き明かしていきましょう。
6月の遠賀川を理解する:アフタースポーンを制する鍵は「エビ」と「梅雨」

6月のバスを釣るためには、まず彼らがどのような状態にあるのかを深く理解することが不可欠です。この時期のバスは、春の一大イベントである産卵(スポーニング)を終え、心身ともに疲れ切った「アフタースポーン」と呼ばれる状態にあります。このバスたちの心理と行動を読み解くことが、釣果への一番の近道となります。
アフタースポーンの現実:バスは「回復モード」
産卵という大仕事は、バスにとって想像を絶するほどの体力を消耗する行為です。そのため、6月初旬のバスの多くは、人間で言えばマラソンを走り終えた直後のような状態。活発にエサを追い回す元気はなく、できるだけ体力を使わずに栄養を摂取したいと考えています。
この時期のバスの行動には、いくつかの特徴が見られます。
- 物陰に隠れる:体力を回復させるため、橋の橋脚や護岸、テトラポッドといった「縦ストラクチャー」や、アシなどの植物が生い茂る「カバー」に身を潜め、じっとしていることが多くなります。
- 中層でサスペンド:ボトム(川底)にべったり付くよりも、水中の中層でボーっと浮いている(サスペンドしている)個体が増えます。これは、上下の移動すら億劫に感じるほどの疲労の表れです。
- 横方向の動きを好む:体力の消耗が激しいバスは、浮き袋の調整を嫌う傾向があります。そのため、ルアーが上から下へ急に落ちてくるような縦の動きよりも、目の前をゆっくりと横切っていくような横方向の動きに反応しやすいのです。
この状態のバスに対しては、「釣る」というよりも、弱った彼らにそっとエサを届けてあげるような「介護」に近いアプローチが極めて有効になります。
究極のイージーイート:「エビパターン」の威力
では、体力を使いたくないバスが、好んで口にするエサとは何でしょうか。その答えこそが、6月の遠賀川を攻略する最大の鍵、「エビ」です。遠賀川にはスジエビやテナガエビといった甲殻類が豊富に生息しており、特に護岸やテトラの隙間は彼らの絶好の住処となっています。
バスにとって、これらのエビはまさに理想的な回復食です。動きが比較的遅く、捕まえやすいうえに高タンパク。さらに、この時期のエビは産卵のために卵を抱えている(抱卵している)個体が多く、栄養価が格段に高まっています。最小限の労力で、最大限のカロリーを摂取できる。これこそが、アフターのバスがエビを偏食する理由です。
私たちアングラーは、この「エビパターン」を意識することで、ルアー選択やアプローチの精度を劇的に高めることができます。
ゲームチェンジャー:梅雨の恵みを活かす
6月といえば梅雨。釣り人にとっては少し憂鬱な季節かもしれませんが、バスフィッシングにおいては大きなチャンスをもたらしてくれます。曇りや雨の日は、太陽の光が遮られる「ローライト」な状況になります。これにより、バスの警戒心が薄れ、普段は物陰の奥深くに隠れているバスも、浅い場所(シャロー)に出てきたり、水面を意識しやすくなったりします。
また、雨による濁りや流れの発生もプラスに働きます。適度な濁りはバスに安心感を与え、ルアーを見切られにくくします。流れ込み周辺には酸素やエサが供給され、バスの活性が一時的に上がることも少なくありません。この梅雨の恩恵をどう活かすかが、タフな状況を打破するきっかけとなるのです。
6月の遠賀川攻略の基本戦略とルアー

6月の遠賀川のバスの状況を理解したところで、次は具体的な戦略とルアー選択に移りましょう。やみくもにルアーを投げるのではなく、バスの状態や天候に合わせて的確なアプローチを選択することが重要です。ここでは、初心者の方でも実践しやすいように、3つの戦略的ツールキットをご紹介します。
- メインの釣り(スロー&デリケート):体力の無いバスに口を使わせるための「エビ」を模した釣り。
- 状況判断の釣り(トップウォーターの興奮):梅雨の恩恵を活かし、水面を意識したバスを狙う釣り。
- 探す釣り(効率的なサーチ):広範囲を探り、数少ない元気なバスを見つけ出すための釣り。
この3つの引き出しを持っておくことで、刻一刻と変わるフィールドの状況に柔軟に対応できるようになります。
メインの釣り:エビを演じるワームの釣り
アフタースポーン期の基本となるのが、エビなどの甲殻類をイミテートしたワーム(ソフトルアー)を使ったスローな釣りです。バスが潜んでいそうな場所に、いかに自然に、そして食べやすくルアーを届けるかが釣果を分けます。
フリーリグ:究極のナチュラルフォール
現在のバスフィッシングで最も有効なリグ(仕掛け)の一つが「フリーリグ」です。その最大の特徴は、シンカー(オモリ)とワームが分離する構造にあります。
- なぜ効くのか?:キャストして着水すると、まず重いシンカーが先に川底へ到達します。その瞬間、ラインがフリーになり、ワームだけが自重でゆっくりと、水平に近い姿勢でフワフワと沈んでいきます。この動きが、無防備に漂うエビや小魚そっくりなのです。体力の無いバスにとって、この「食わせの間」がたまらなく魅力的に映り、思わず口を使ってしまいます。
- 初心者向けの使い方:
- キャスト:狙うストラクチャー(橋脚や岩など)の少し奥を狙って投げます。
- ラインを出す:着水したらすぐに竿先を下げ、ラインの張りをなくします(ラインスラックを作る)。これがシンカーとワームを分離させるための最も重要な動作です。
- バイト(アタリ)に集中:アタリのほとんどは、シンカーが着底し、ワームがフワフワと落ちている最中に起こります。ラインが「コンッ」と弾かれたり、スーッと横に走ったりする動きに全神経を集中させましょう。
- 誘い方:アタリがなければ、ゆっくりとロッドを立ててリグを少し持ち上げ、再び竿先を倒してラインを緩め、フォールさせます。この「リフト&フォール」を繰り返して探ります。
- おすすめのセッティング:シンカーは3.5g〜7g程度。ワームはエビやザリガニに似たクロー系や、扁平なギル系の形状のものが効果的です。
ライトテキサスリグ:ボトム(川底)をズルズル
フリーリグと並んで有効なのが「ライトテキサスリグ」です。シンカーとフックが一体に近いため、根掛かりに強いのが特徴です。
- なぜ効くのか?:遠賀川に多い砂地や泥底のエリアで、ゆっくりとズル引きすることで、底の砂を巻き上げて「砂煙」を発生させることができます。これが、底のエサを探すエビやゴリの姿を演出し、バスの食性に訴えかけます。
- 使い方:キャストして着底させたら、ロッドを横にゆっくりと掃くように動かして、リグを30cm〜50cmほどズル引きます。そして数秒止め、またズル引く。この繰り返しです。底の感触をロッドで感じながら、丁寧に行うのがコツです。
状況判断の釣り:トップウォーターゲーム
梅雨の曇天や雨、そして朝夕のマズメ時。これらの条件が揃った時、バスは水面を強く意識します。そんな千載一遇のチャンスをものにするのが、エキサイティングなトップウォーターの釣りです。
ポッパー:「間」の芸術
ルアーの口についたカップで「ポコッ」という音と水しぶきを出すのがポッパーです。
- なぜ効くのか?:音とスプラッシュで遠くのバスに存在を知らせることができますが、本当のキモは「ポーズ(止め)」にあります。アクション後の静止した時間こそ、体力の無いバスが「これなら食べられる」と判断し、バイトしてくる絶好のタイミングなのです。
- 使い方:遠賀川の6月で圧倒的な実績を誇るのが、「2〜3回スプラッシュさせて、3〜5秒ポーズ」というリズム。狙った場所にキャストし、波紋が消えたら、手首を軽く使って「チョン、チョン」と2回ロッドを動かします。そして、リールを巻かずにルアーを水面に浮かべたまま5秒数える。アタリはこの瞬間に集中します。
- おすすめのルアー:大きすぎず小さすぎない、60mmサイズのポッパーが特に効果的とされています。
バズベイト:投げて巻くだけのシンプルさ
プロペラが回転し、水面をジュルジュルと音を立てて進むのがバズベイトです。
- なぜ効くのか?:強いサウンドと引き波で、活性の高いバスに猛烈にアピールします。そして何より、使い方が「投げて巻くだけ」と非常にシンプルなため、初心者の方でもすぐに実践できます。
- 使い方:キャストし、ルアーが水面に落ちるか落ちないかのタイミングでリールを巻き始めます。プロペラが水面でしっかり音を立てるスピードを保って、一定に巻き続けるだけでOKです。
探す釣り:スピナーベイトのシンプルな力
「今日、バスはどこにいるんだろう?」そんな時に真っ先に投げるべきルアーがスピナーベイトです。
- なぜ効くのか?:ブレードと呼ばれる金属片が回転することで、強いフラッシング(光の反射)と波動を生み出し、広範囲のバスにアピールします。ワイヤーがガードの役目を果たし、非常に根掛かりしにくい構造のため、初心者の方でも障害物を恐れずに攻めることができる「サーチベイト」の王様です。まずはこのルアーで、その日にやる気のあるバスがどこにいるかを探し出します。
- 使い方:基本は「ただ巻き」。キャストして、少し沈めてから、ブレードがブルブルと振動しているのを感じられる一定のスピードで巻いてくるだけです。
- 使うタイミング:初めて訪れたポイント、風が吹いて水面が波立っている時、雨で少し濁りが入った時などに、まず最初に投げてみましょう。
初心者におすすめ!6月の遠賀川おかっぱり厳選ポイント

遠賀川は広大で、どこを釣ればいいのか迷ってしまうかもしれません。ここでは、特に6月の釣りに適しており、初心者の方でもアクセスしやすく、実績の高い「おかっぱり(岸釣り)」ポイントを3つ厳選してご紹介します。
ただし、有名ポイントには共通の課題があります。それは「人的プレッシャーが高い」こと。多くの釣り人が訪れるため、バスは警戒心が高くなっています。だからこそ、ただ場所を知っているだけでは不十分。「なぜそこで釣れるのか」そして「プレッシャーをどう攻略するか」という戦略を持つことが、釣果を分けるのです。
中間市役所前〜JR鉄橋エリア:アクセスの良い鉄板ポイント
遠賀川のバスフィッシングと聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのがこのエリアでしょう。
- 分析:中間市役所前には広大な無料駐車場が完備されており、アクセスは抜群。護岸はコンクリートで舗装され、階段状になっているため非常に釣りがしやすいのが特徴です。狙うべきは、その護岸の壁、遠賀橋や筑豊本線の橋脚、そして水面に突き出た水位計などの「縦ストラクチャー」です。
- プレッシャー攻略法:
- 足元を攻める「縦の釣り」:多くの釣り人は沖に向かって遠投しますが、プレッシャーを感じたバスは意外にも足元の護岸の壁に寄り添っています。ここで有効なのが、3.5g〜5g程度の少し重めのシンカーを使った「ヘビーダウンショットリグ(ヘビダン)」。ルアーを壁際にまっすぐ落とし、その場でシェイクして誘う精密なアプローチは、他の釣り人がやらないからこそ効果を発揮します。
- 橋脚の「ヨレ」を狙う:橋脚は最高の隠れ家ですが、真正面から攻めても警戒されます。狙うべきは、流れが橋脚に当たってできる「裏側のヨレ」。フリーリグやテキサスリグを橋脚の少し上流に投げ、流れに乗せて自然にヨレの中へ送り込むイメージでアプローチしましょう。
菜の花大橋周辺:変化に富んだ人気エリア
直方市にある菜の花大橋周辺は、テトラポッド帯やアシなどが絡み、バスの隠れ家が豊富な人気エリアです。
- 分析:河川敷に車を停めるスペースがあります。このエリアの最大の特徴は、延々と続くテトラポッド(消波ブロック)帯。無数の隙間がバスにとって格好の隠れ家となります。また、小規模な流れ込みや岸際のアシも絡み、地形変化に富んでいます。
- 複雑なカバーの攻略法:
- 朝イチのトップウォーター:日が高くなる前の朝マズメは、テトラ帯の外側やアシの切れ目をポッパーで探るのがセオリーです。
- テトラの「穴撃ち」:このエリアのメインゲームです。遠投は必要ありません。水際から少し離れて立ち、5g程度のテキサスリグや高比重ワームのノーシンカーリグを、テトラとテトラの間の暗い隙間に正確に「ピッチング」という投げ方で静かに落とし込んでいきます。アタリは着水直後のフォール中に集中します。根気と正確さが必要ですが、プレッシャーから逃れたバスを直撃できる最も有効な釣り方です。
犬鳴川:本流がタフな時の切り札
遠賀川本流の状況が悪い時、例えば大雨による激しい濁りや増水があった時の避難場所として、支流の犬鳴川は非常に頼りになる存在です。
- 分析:本流に比べて川幅が狭いため、魚が特定の場所に集中しやすい傾向があります。特に、流れを変化させる堰(せき)や水門、そしてテトラ帯がキーポイントとなります。橋のたもとなどに車を停められるスペースが見つかることも多いです。
- フィネスなアプローチが鍵:犬鳴川は本流よりも小規模で、プレッシャーがかかるとバスはさらに繊細になります。ここでは、本流のようなパワーフィッシングではなく、「フィネス(繊細な)アプローチ」が圧倒的に有利です。
- ライトラインを使う:ラインはフロロカーボンの4lb〜6lbといった細めのものに切り替えます。
- 軽いリグで自然に流す:水門から流れ出す水のヨレや、堰の下の流れが緩むスポットを、「ネコリグ」や1.8g〜2.7gといった軽いシンカーを使った「ダウンショットリグ」で攻めます。ルアーを自分で動かすというよりは、流れに乗せて自然に漂わせるイメージです。この繊細な釣りが、タフな犬鳴川のバスに口を使わせる鍵となります。
6月の遠賀川 おすすめポイント別攻略法
ポイント
特徴
おすすめの釣り方
おすすめルアー
中間市役所前エリア
駐車場◎、足場◎、橋脚、護岸、高いプレッシャー
縦ストラクチャーへのタイトなアプローチ、リアクションを誘うヘビダン、ボトムのズル引き
ヘビーダウンショットリグ (3.5-5g), フリーリグ (5-7g), ライトテキサスリグ
菜の花大橋周辺
駐車場〇、テトラ帯、アシ等のカバー、流れ込み
朝夕のトップウォーター、テトラの隙間を丁寧に撃つ「穴撃ち」
スティーズポッパー60F, 高比重ワームのノーシンカー, テキサスリグ (5g)
犬鳴川
川幅が狭い、水門、堰、魚が集中しやすい
流れのヨレを狙ったフィネスな釣り、丁寧なストラクチャー攻め
ネコリグ, ダウンショットリグ (1.8-2.7g), スモラバ
釣果アップのコツとフィールドでの注意点

最後に、あなたの釣りをさらに成功に近づけるためのヒントと、遠賀川という素晴らしいフィールドで末永く釣りを楽しむためのルールとマナーについてお伝えします。
遠賀川で役立つタックルと装備
- タックル(竿とリール):初心者の方が最初に揃えるなら、テキサスリグからスピナーベイトまで幅広く扱える、長さ6フィート6インチ〜7フィートで硬さが「M(ミディアム)」のベイトタックルがおすすめです。ラインはフロロカーボンの12lb〜14lbを巻いておけば、多くの状況に対応できます。犬鳴川でのフィネスな釣りを視野に入れるなら、硬さが「L(ライト)」のスピニングタックルに4lb〜6lbのラインを巻いたものがあると、攻略の幅が大きく広がります。
- ランディングネット(タモ網):これは 必須装備 です。遠賀川の多くのポイントは足場が高く、大きな魚が掛かった時にネットがなければ取り込むことができません。一生の思い出になる魚を逃さないためにも、必ず携帯しましょう。
- 偏光サングラス:日差しを防ぐだけでなく、水面のギラつきを抑え、水中の様子を見やすくする効果があります。水に沈んだ障害物やベイトフィッシュ、時にはバスの姿そのものを見つけることができる、まさに「釣れる」ためのアイテムです。
安全とマナー:楽しい一日を過ごすために
- 安全対策:
- 熱中症対策:梅雨の晴れ間は非常に蒸し暑くなります。帽子をかぶり、こまめに水分補給を心がけましょう。
- 虫対策:岸釣りでは草むらを歩くことも多いです。虫除けスプレーや、長袖・長ズボンで肌の露出を減らすと安心です。
- 天候の急変:梅雨時期は天気が急変しがちです。釣行前には天気予報を確認し、急な雨や雷に備えましょう。
- フィールドマナー:
- 駐車マナー:必ず指定された場所に駐車し、迷惑駐車は絶対にやめましょう。
- ゴミ問題:「来た時よりも美しく」を合言葉に、自分が出したゴミは必ず持ち帰りましょう。
- 先行者への配慮:人気のフィールドでは、他の釣り人がいることも多いです。先行者がいたら十分に距離をとり、挨拶を交わすなど、お互いが気持ちよく釣りを楽しめるように心がけましょう。
まとめ:6月の遠賀川を攻略し、最高の1匹を手にしよう!
6月の遠賀川。それは、産卵を終えて疲れ切ったバスと向き合う、アングラーの理解力が試される季節です。力任せの釣りではなく、バスの状態を思いやり、そっと口元へエサを届けるような、繊細さと丁寧さが求められます。
この記事で解説した「アフタースポーン」というバスの状態を理解し、「エビ」を意識したスローなアプローチを実践すること。そして、「梅雨」という季節の恵みを味方につけること。この3つのポイントを心に留めておけば、たとえ初心者であっても、必ずや釣果はついてくるはずです。
さあ、このガイドを手に、日本屈指のフィールドである遠賀川へ挑戦してみてください。あなたの釣り人生に深く刻まれる、最高の1匹が待っています。